【14.12.24】知事選圧勝をもたらしたもの―立憲民主主義で結束した「オール沖縄」

小林 武(沖縄大学客員教授・革新愛知の会代表世話人)

 11月16日施行の沖縄県知事選挙は投票率64・13%、投票終了の瞬間、開票率0%で報道各局は、翁長雄志氏当確を競い合った。圧勝に、人々は涙に咽んだ。36万820票を獲得して、26万1076票の仲井眞弘多現知事に9万9744票の大差をつけ得票率で51・6%に達した。41市町村のうち翁長氏は26自治体で第1位となり、そこには、仲井眞支持の市長を擁

する、米軍普天間基地を抱える宜野湾市も含まれていた。県内の辺野古に新基地建設を認めるか否かを最大の焦点としたこの選挙で、県民は「ノー」と言い切ったのである。

■ 「立憲民主主義のゆいまーる」
 立憲主義に対する政権のわきまえのなさは、集団的自衛権の行使容認という憲法上の重大な原理変更を、憲法改正権をもつ主権者国民の判断に委ねることなく、国民代表議会に諮ることさえしないまま閣議決定で押し通してしまった手法に、その典型を見出す。これを眼前にして、護憲の人々だけでなく、改憲の見地に立ちつつもこうした強権手法の憲法破壊だけは許せないとする人々まで含めて、いま、立憲主義に拠る幅広い結集が図られつつある。この立憲民主主義――「立憲主義」の語が戦前のわが国も含めて歴史的に担った役割を考慮して、「立憲デモクラシー」、「立憲民主主義」が適切であろう――を結節軸とした団結が、今日わが国における国民運動の主軸の形態なのではあるまいか。そこに、21世紀的な統一戦線の萌芽を見出すことができるように思われる。沖縄では、それが「オール沖縄」という形で具体化されているのである。現地の言葉をつかうなら、「立憲民主主義のゆいまーる」と表現できるかもしれない。この点を、翁長氏は、自らの立つ位置を「保守だが、沖縄の保守」と言い、「イデオロギーよりアイデンティティ」と訴えた。沖縄の保守は、中央に支配されることなく、沖縄が共通基盤となるなら革新とも手を結ぶ、というのがその含意である。そうである以上、これまで保守が革新を「理想ではメシが食えぬ」と揶揄し、革新が保守を「命をカネで売るのか」と非難してきたのを止めて、双方沖縄人のアイデンティティに立ってお互いを褒め合おう、と呼びかけたのである。そこから、「誇りある豊かさ」こそ追求すべき目標だというスローガンが出された。それが、沖縄戦、アメリカの軍事占領、基地重圧の永い日々、辛苦に耐えて人間の尊厳を守ってきた人々の胸に響き、共感を得たのである。

■■ 対立軸は中央政権対沖縄民衆
 政府側の受けとめは、「政府方針は辺野古移設が唯一の解決策であると一貫している。粛々と進めていきたい」というものであった(7日、菅義偉官房長官)。民主主義の何たるかを知らないこの発言に、人々はわが耳を疑った。「民主主義国家の品格」(翁長氏)が問われる事態である。選挙戦で、「オール沖縄」を支えた経済人の一人から、「沖縄のたたかいが日本を救う」という発言が出た(沖ハム会長長濱徳松氏)。たしかに、現在の政権が進めているものは亡国の政治であり、救国が課題となっていることに気付かされる。そして、沖縄の民衆が、わきまえのない暴政から日本を救う課題を自ら担っているのである。この度の勝利のもつ意義は量り知れないほど深いものであろう、と思う。

■■■ 開かれた歴史の新しい頁
 戦後、沖縄県民が自ら新たな米軍基地の建設を容認したことは一度もない。米軍施政下の、「銃剣とブルドーザー」による暴力的な土地収奪にも、人々は屈しなかった。この県民の誇りは、今回も貫かれ、今後とも揺らぐものではない。先に引いた官房長官の「粛々」発言は、この沖縄人の誇りを解しようとしないものである。翁長氏は、知事に与えられたあらゆる法的権限を行使して、埋立て承認の取消・撤回を含め、新基地建設阻止のために全力を尽くすことを公約している。県民が期待していて、また法的にも可能な取消・撤回を、翁長氏はそれ自体を公約することはせず、まずは知事権限で承認の瑕疵の有無を調査し、その結果にもとづいて取消・撤回の適否・時機を判断する、という。これは、相手をよく考慮した賢明な言明であると思う。新知事の歩
む道は、もとより平坦ではない。「オール沖縄」勢力にとっては、知事を支える磐石の土台を固め、知恵を集めて、知事とともに新基地建設阻止に向うプログラムづくりに入ることが自らの課題となった。
客観的にみて、知事選が投げかけたものは、新基地建設の是非にとどまらず、その根っこのところにある日米の、米国に主導されている軍事同盟関係を私たちの国の基盤に置きつづけてよいのたろうか、という根本的な問いかけであった。選挙後、国の埋立てのための工事は直ちに再開され、抗議する人が2日続けて負傷する事態まで惹き起された。米軍基地こそ、沖縄社会をトータルに破壊し、人々の人間としての尊厳を根底から傷つけてやまない存在である。県民と新知事による普天間新基地建設阻止の努力は、きっと、基地のない沖縄・日本へと向う展望を拓くことになるにちがいない。

■■■■ 総選挙でも「オール沖縄」態勢
 安倍政権は、総選挙をアベノミクスの是非を問うものとしつつ、その実、勝利するや、あたかも国民から白紙委任を得たかのごとくに振舞うにちがいない。宿願の国家主義政策を次々と手がけた末に、憲法改正にまで行き着こうとするであろう。そのような非立憲の政権であってみれば、沖縄政策も、県民意思を意に介さず、日米合意の国策を強行することであろう。しかし、道理は県民の側にあり、その誇りを押し潰すことはできない。そのことを教えたのが今回の知事選圧勝であった。

*2014・12・13法律時評「知事選圧勝をもたらしたもの―立憲民主主義で結束した『オール沖縄』」の小林武さんの原稿を了解をいただいて編集部の責任で抜粋し掲載させていただきました。

このページをシェア