【14.10.10】沖縄からのたより(4)「知事選の歴史的意義」

小林武(沖縄大学客員教授、革新・愛知の会代表世話人)

 
 沖縄の有権者は、地方選挙であっても、全国の政治の方向を決める・あるいはそれに大きな影響を与える選択を迫られます。それはけっして当たり前のことではありません。それにもかかわらずそのようであるのは、沖縄に米軍基地が偏重し、政治の矛盾が集中しているからです。11月16日の県知事選は、まさにこの選択の重大な決戦の場です。

 その決定的な争点は「辺野古」新基地建設の是非です。よく、「普天間」基地を移設するための代替施設といわれますが、それは口実で、本質は巨大な永久基地の新設です。新基地の耐用年数は2000年、1,800m滑走路2本をV字型に配置し、ヘリパッドや弾薬庫が併設され、オスプレイ100機を常駐させます。さらに、強襲揚陸艦が接岸できる272メートルの護岸が設置されます。軍用の滑走路と港湾の機能を兼備する米軍基地は、沖縄では初めてです。これこそ米側が永年要求していたもので、1996年のSACO合意で辺野古への移設が打ち出され、2006年の日米合意で今回の計画が決定されたのです。

 これを、沖縄県民は強く明確に拒否してきました。仲井真弘多現知事さえ、4年前の選挙では本心を隠して、普天間基地は「県外」に移設することを公約したほどです。
 昨年12月、安倍政権の圧迫と懐柔の下、仲井真氏は、沖縄選出自民国会議員や自民県連とともに、県民を裏切り、辺野古基地建設のための公有水面埋立てを承認しました。それを機に政府は建設に動き出し、今年7月1日の閣議決定で広大な海面を立ち入り禁止にして抗議の人々を刑事特別法で処罰する体制をつくりました。8月に入って、防衛局・海保・県警、それに民間警備会社まで動員する厳重な警備の中で海底ボーリング調査が強行され、ボートやカヌーの抗議者を多数検挙しています。1950年代に米軍は基地建設のために「銃剣とブルドーザー」で住民を脅迫しましたが、今回のものは、その日本政府版だといえます。

 安倍政権のこの傍若無人の蛮行に対する沖縄の人々の憤りは大きく、どの世論調査でも「支持できない」が8割です。今年7月の現地名護市の市議選では、市民は、基地反対の市長与党に過半数の議席を与えました。それでも、「粛々と基地建設をすすめる」と言い放ったのが、「沖縄負担軽減」担当(なんとも人を食ったネーミングですね)の菅義偉官房長官です。民意には聴く耳を持たないのです。稲嶺進名護市長の市民への公約は、海にも陸にも基地をつくらせないというものです。沖縄の私たち弁護士・法律学者も市長に助言するチームをつくっており、市長は法律上与えられているあらゆる権限を行使する姿勢を堅持しています。そのため、政府は、市長権限の届かないやり方で工事をするため計画の一部変更を県に届けました。政府の態度は狡猾ですが、県民側のたたかいの成果でもあります。

 人々の意気は軒昂です。辺野古の沿岸には、連日猛暑の中、朝から夕方まで抗議の声が止みません。8月23日には2千人予定のところ3,600人、9月20日には3千人予定が5,500人という大集会が浜辺で開かれました。権力が強圧的に襲いかかっても、沖縄県民はけっして怯むことはないと思います。そして、本土との連帯も、革新懇主催9月8、9日東京、大阪の集いに、会場にあふれる人々が集いました。いずれの会場でも感動を与えたのは、沖縄保守の重鎮・仲里元県会議長と革新懇の代表的活動家・仲山弁護士が手を組んで翁長新知事の誕生を目指すという「オール沖縄」の姿を目の当りにしたことです。

 19日の愛知の集いも大盛況とうかがっています。 この流れはますます大きくなって、きっと勝利の実りを得ることでしょう。
 知事選勝利は、巨大な歴史的意義をもちます。辺野古新基地建設を阻止し、さらに米軍基地のない沖縄・日本に向かう展望を開くことになります。それは、沖縄の人々の平和に生きたいという願いを踏みにじり、経済発展を妨げ、また自然を破壊して止まない元凶を取り除くことを意味します。政府側の立てる候補は、県民を裏切り、いまや権力の従僕に成り下がった現職ですから、翁長勝利は、日米両政府に痛打を与え、戦争をする国づくりの転換をもたらす契機となります。そして、それは、主権者国民・住民こそが国と地域のあり方を決めるという民主主義を再生させます。歴史は、大きく新しいページをめくることになるでしょう。

 翁長雄志氏にふれておきます。沖縄自民を代表してきたひとりで、オーソドックスな保守政治家というべき人です。しかし、その立場から筋を通し、現知事や沖縄選出自民国会議員・自民県連の変節に同調せず、2013年1月のオール沖縄の共同文書である『建白書』が掲げた普天間基地の無条件閉鎖・撤去、オスプレイ撤去の方針を貫きました。ここに、県民は信頼を寄せています。同時に、安保条約の終了が選挙公約となりえないのはもとより、辺野古海面埋立て承認の取消・撤回も、それを求める県民の声を尊重して新基地はつくらせない、という文言の政策協定になります。
 私たちは、これから、選挙に向け、さらに新知事の誕生後は一層、常に支え、盛り立てるという山のように大きい課題を背負うことになります。まずは、圧勝することで明瞭な民意を示さなければなりません。しかし、それらは、歴史をつくる楽しい仕事です。
 今般の知事選における「オール沖縄」に幅広さは、私の意見ですが、いま安倍政権が進める憲法破壊に対して憲法改正論の人も含めて広く団結する「立憲デモクラシー」の戦線と共通するものだと考えます。これが、今日の日本の統一戦線の、その芽生えの形なのではないでしょうか。

 11月16日には、沖縄と愛知で遥かに乾杯を交わしましょう。
 
2014年9月24日   宜野湾で

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