【07.08.05】坂東 昌子さん〔日本物理学会会長〕

科学者の使命―核廃絶へ湯川秀樹の想いを引き継いで

 
愛知大学車道校舎に、日本物理学会会長の坂東昌子さんを訪ねました。人と話すのが大好きとおっしゃる坂東さん。
東京出張の前のお忙しい中、お話しを伺いました。

坂東 昌子さん
一九三七年生まれ。現在、日本物理学会会長。
一九六〇年京都大学物理学部物理学科、湯川秀樹研究所に所属。愛大一般教育を受け持つ。

家を解放して保育所つくり

私は、兵庫に生まれ、高校までは大阪で過ごしました。父は、大阪の商人でした。家には、本が沢山あり、算数が大好きでした。

 京都大学院博士課程一年の時に結婚、二年の夏に長女が生まれました。一九六四年の頃、に私の家を開放して、保育所をやりましたね。多い時には15人くらい。家を解放していたので、朝早くから子供が来るし、たいへんでしたね。ある人から「あんたの業績は保育所をつくったことだ。」とよくいわれましたね。

 京大の保育所は、集団保育理論のリーダー的役割を担っていました。

湯川秀樹研究室で学ぶ

大学院では、湯川研究室を選びました。専門は物理学で、自然に存在する物質の究極の姿を追い求めています。

 物質は、原子から原子核、素粒子、クォークとここまで解ってきています。最近では、謎の粒子であるニュートリノの研究も力を注いでいます。一九八七年、超新星爆発からでてきたニュートリノが地球にやってきたわけです。超新星とは、実は星が死ぬ前に最後に輝くのです。それをきちんととらえたのが神岡の宇宙線研究所です。ニュートリノの本質に迫るようなデーターが出たらしいということで、結構興味を持ち、このテーマに集中したものです。

はじめは、少数派でも正しいことは、 人の心を捉え大きな流れに

少数派でも正しいことをー科学者の使命
 
 少ない女性科学者のなかでも、環境問題に警告を発したのは女性が多いです。シーア・コルボーンにしろ、レーチェル・カーソン、アスベストの危険を百年前に真っ先にいった女性技術者のルーシー・ディーンらです。

 女性研究者の「リーダーシップ研究会」を立ち上げ、回を重ねています。この会は、時代の先を見て、たとえ、はじめは少数派でも、正しい方向に向かって歩んでいれば、それは人の心を捉え、大きな流れにしていける、それを目指していきたいと考えています。
 レーチェル・カーソンは最初は「ヒステリー女」扱いされましたが、一九六二年に発表した『沈黙の春』は、農薬類の問題を告発した書として米国政府にまでその衝撃が伝わり、ケネディ大統領は大統領諮問機関に調査を命じました。これをうけて、農薬の環境破壊についての情報公開を怠った政府の責任が厳しく追及され、DDTの使用は、全面的に禁止され、環境保護を支持する大きな運動が世界的に広がったのです。

 今の社会の動きを考える時に、政治的、経済的な実力者だけの思いではなくて、市民、世論がどういう役割をはたしたのかという分析が必要ではないでしょうか。

 21世紀は、NPOの時代といわれているくらいで、市民が、主役の時代だと思います。
 なぜ、戦後60年間、原子爆弾は使われなかったのか、なんといっても自衛隊が人を殺したことがない、その一点だけ考えてもすごいことです。自衛隊は実質的な軍隊です。しかし、憲法・9条があるだけではだめで、みんなが監視しているからです。そこを悲観的に見るのではなく、世論の力がここまでやってるのだ、国際世論がそうさせたんだということをもっと言う必要があるとおもいます。

 科学者のバナールは、「無知では駄目だ。賢くならないといけない。世論もみんなが賢いからいい方向に向くのであって世論だからいいということではない」と言っています。世論も悪い方向に行くこともありますので、注意しないといけないですが、私は、少数派であっても正しいことをいうことが、科学者の使命だと思います。
 学生には、「なんでかな」「本当かな」ということを自分で事実をみてたしかめるよう話しています。

 ヒトラーを悪者にするよりもヒトラーがなぜ、出てきたのかという状況を見極めないといけないと思います。

日本国憲法は、世界の人類の知恵

二〇〇七年は、湯川秀樹生誕百年です。
 湯川先生は、合理的、客観的事実をあきらかにすることによって目標達成するということを常にいっておられました。そういう意味では、核廃絶は研究の他にあったのではないと思います。その延長上にあったと思います。

 なぜ戦争が起こるのか、核兵器を廃絶するにはという社会科学の分野まで踏み込み、全面核軍縮のためにはと、世界的な視野で考えておられました。

 科学の精神をどう社会に伝えるのか、物理学の成果をもっと社会に生かすためにはどうすればいいのか、学会としてどんな活動ができるのか、課題だと思います。

 湯川先生は、「多数だから正しいとは限らない。少数でも正しいことはいつか多数派になる、と。もっと、きちんと物を見ないといけないよ。」と言っておられました。
 日本の憲法は、世界の人類の知恵だと思います。たとえ、人類の少数派でも正しいことを日本がやっているわけですね。

知恵を見つけて引き出すのが科学

私は、学生から学んでいます。学生たちは、思いもよらない発想をします。「あっ ほんまやなあと。」学生たちは、「環境問題、色々いってきたが、ぼくが一番大事だと思うのは、愛と知だ。人間が他の人のことをわからないと、環境問題は解決しない」「戦争って、環境を全部破壊します。どうして、それが環境問題の本に書いてないの?」って。「すごいええこというわ」といったのですが、五百人もいたら知恵がいっぱいある。それをみつけて引き出していくのが科学だとおもいます。

 人々の知恵を無視するようなやり方は本当の科学ではありません。  
 将来は、喫茶店とかサロンもやってみたいし、推理小説で科学的なことを書きたいなどやりたいことは、たくさんありますね。

 人間は、コミュニュケーションが大事です。
 私も人と話をするの好きで、楽しみながらいきたいですね。

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