【08.03.10】名古屋市医師会緑区会長 鬼頭早苗さんに聞く

「構造改革」で、医療の世界は疲弊 後期高齢者医療制度は

 
緑平民懇主催のシンポジウムのパネラーの一人になられた緑区医師会長の鬼頭早苗さん。後期高齢者医療制度の問題を厳しく指摘されました。診療前のお忙しい中、お話しをうかがいました。

鬼頭 早苗さん
1934年生まれ。現在、名古屋市医師会緑区会長。三重大学医学部卒業、名古屋大学第一外科入局後、稲沢市民病院勤務。1972年開業。

地域医療を守らないと

 1月26日の緑平民懇の後期高齢者医療制度のシンポにパネラーとして参加させていただき、みなさんの熱気、活気を感じましたね。コミセンが立ち見でいっぱいになりびっくりしましたね。

 いま、切実に思うことは、私たち開業医の後方支援の役割を担う地域の病院が完全に壊れています。地域医療がどうなっていくのか。本当に心配です。地域医療を守らないといけません。患者さんを大きな病院に紹介すると「先生がいない、専門医がいない」と簡単に断られてしまうことが、ここ1年くらい多くなりました。

 診療報酬は、2000年から4回連続で減らされています。

医療の世界を疲弊させた小泉「構造改革」

 そこへもってきて、2001年、当時の内閣総理大臣小泉純一郎がおこなった「骨太改革」ですね、この影響は非常におおきいです。06年の「骨太の方針」で社会保障費を2007年から毎年2200億円、5年間で1兆1千億円を抑制することがきまりました。

「皆保険制度を未来永劫、継続するためには、仕方ないことだ」と医療費を抑制、自然増をおさえています。経済至上主義の「構造改革」でおかしくなってしまいました。医療は公的なものです。儲かるか儲からないかでやられたらたまったものではありません。

小泉「構造改革」、診療抑制、あきらかに、医療の世界を疲弊させています。
 病院の収入がダウンして医者や看護師を雇うことが出来なくなって、「無難に」「控えめに」と内向きになってしまいます。地域医療がどうなっていくのか。本当に心配です。

後期高齢者医療制度は医療費抑制をが目的

 後期高齢者医療制度は、医療費抑制を目的とする制度です。国民皆保険制から見ても間違っています。

 新たな診療報酬体系をつくることになっていますが、まだはっきりしていません。はっきりしているのは、国は、当面、後期高齢者(75歳以上)にしぼり、医療機関への複数回受診を抑制するために、包括定額制度を導入するとしています。

 医者は、検査をしたいと思っても包括定額制ということになって、やってもやらなくても報酬は一緒ということになると、「赤ひげ」のような精神の先生がいればですが、そうはなかなかなりません。

 診療の意欲を減退させることは間違いないです。 「おばあちゃん、もう来なくていいよ」という人はいないと思いますが、そういうことを言わざるを得ない制度です。
 結局は患者さんの受診抑制になります。

 もう一つは、主治医制度を導入するとしています。患者は他の医院(眼科、耳鼻科などの単科は除く)や病院にかかるときには主治医に診てもらわないといけなくなります。主治医の紹介状がないと他の医院や病院へもいけません。
 国民皆保険制度といいながら、そう簡単には自分の希望するお医者さんにはかかれなくなるのです。

 「私はあなたの主治医になります」と署名、捺印して、主治医になった人は24時間365日、責任を持たないといけなくなります。患者さんにとっても、医者にとても24時間拘束されるということで大変なことです。
 机上で理想論をもってやって見えるかもしれませんが、全く、現場の状況が分かっていませんね。

現場の医師への講習は3月24日

 4月1日から実施の後期高齢者医療制度の講習会ですが、3月5日に日本医師会が47都道府県の担当理事を集めて実施、17日に愛知県医師会が点数改正講習説明会をやる、そこで聞いてきた内容を緑区内130医療機関の先生たちに伝達する会議が3月24日です。

 どう思いますか。

 4月1日から始まる制度の説明会です。
 勘ぐると事前に漏れるのをかくすように思えてなりません。

必要なところにこそ 財源を

 財務省がある程度、社会保障費の総額を決めてしまって、その中でやりなさいよと医療抑制をする、そうすると診療報酬を引き下げないと帳尻が合わないということになります。総抑制をやめさせないといけません。医師会でも問題になっています。

 私は、開業して35年、地域の医療にたずさわるものとして、医療は、出来るだけ地域内で、緑区内の病院で完結させたいと思います。

 防衛省の利権問題はほんとうにひどいですね。米軍の住宅など建設単価が高いそうですが、どうしてそういう所には、気前がいいのでしょうかね。必要なところに、とくに地域医療に公的なお金を使ってほしいですね。

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