【14.05.10】感情に訴えることも――運動に求められること

山田壮志郎(日本福祉大学社会福祉学部准教授)

 
 イチロー・カワチ氏の『命の格差は止められるか』(小学館)を読みました。

 この本では、経済格差やソーシャルキャピタルの不足が健康に与える影響が分かりやすく説明されていますが、最後に、「果たして、人の行動は変わるか」ということが書いてありました。なぜ人は健康に良くないと分かっていながら不健康な行動をとってしまうのか?この点について著者は、人間は正しさを基準に行動するという前提に限界があると指摘しています。
 人間は理性だけではなく感情によって行動しているから、健康に良くないと理解はしていても不健康な行動をとるというのです。例えばタバコ会社は、カッコいい俳優を使ったCMで人々の感情に訴えかけ、理性に勝利しているというのです。したがって健康推進派も、正しさだけを主張するのではなく、人々の感情に訴えることが必要ではないかといいます。

 翻って、生活保護へのバッシングが広がったとき、私たちは生活保護制度の正しい理解が必要だと訴えてきました。例えば、お笑い芸人の母親が生活保護を受給していることが問題になった際、マスコミではあたかもそれが不正受給であるかのように報道されましたが、それは誤解であり法的には不正受給に該当する案件ではないと反論しました。それは決して間違っていないのですが、もしかしたら生活保護をバッシングしている人にとっては、あの事例が法律上不正受給に該当するかどうかなんてどうでもいいのではないか。正しさではなくて感情的な部分でバッシングは起きているのではないかと思うのです。

 生活保護をめぐる世論は大変厳しい状況が続いています。この状況を少しでも変えていくためには、正しい理解を広げていくと同時に、感情に訴えかけるような戦略を立てることも運動に求められているのではないかと思う今日この頃です。

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