【19.01.10】小林武さん(沖縄大学客員教授)―安倍改憲阻止は、憲法が活かされる政治の展望開く

運動の展望 日米安保条約破棄を

 
小林 武 さん

1941年京都市生まれ。2011年、南山大学・愛知大学教授を定年退職して後、沖縄に移住。現在、沖縄大学客員教授。沖縄で平和的生存権研究、沖縄憲法史研究、そして基地と人権の訴訟に取り組む。

誇りと賢さの勝利

 私は、生涯を沖縄でと移住して7年半がたちました。 1959年うるまの宮ノ森小学校でジェット機が墜落し18人が亡くなり、200人を超える方が負傷しました。米兵はパラシュートで脱出して無傷でした。憲法があればあり得ないこと、憲法、基本的人権がどうなっているのか沖縄における不条理、このことが唯一の動機で18歳の私の幼い決心となりました。
 9月に行われた沖縄知事選挙は政権が「勝利の方程式」として権力、金力を使った選挙でした。デニーさんは「勝てる要素のない選挙」といわれていました。なんと、オール沖縄は圧勝したわけです。
 それは、なによりも命がけで県民を守り抜いた翁長さん、翁長さんの後継者の玉城デニーさんを県民が信頼しました。相手は宜野湾市長であった人物ですが、政府の代理人そのものです。
そのことを県民のみなさん
は見抜きました。県民の誇りと賢さ、これが一番大きな勝因であろうと思います

大きな道が開かれる

 知事選挙後もオール沖縄は前進。豊見城市長選挙、那覇市長選挙とあわせて三つのすべてとも圧勝で勝利をおさめました。
 保守政治家を団結の基軸にすべての政治勢力がそこに団結した沖縄のたたかいです。このような姿はこれからも続いていくと思っています。
 デニー知事は政府とアメリカに対する協議を積極的に開始しています。これは翁長さんもやられていたことですが、違う点があります。それは、玉城知事が主導権を握っている、協議を呼びかけ、情勢を沖縄の側が動かしていると思います。順風満帆に行くとは思いませんが、翁長さんの歩んだ棘の道とこれから開かれるであろう道は違います。知事選挙と2つの選挙で県民の意思ははっきりしました。同じ棘の道でも大きな道が開かれていると思います。

辺野古に基地は造れない

 辺野古に基地は「造らせない」のではなくて政府はこれから強引に造ろうとしますが「造れない」のです。
 なによりも、県民の新基地拒否の意思が明瞭だからです。2月の県民投票はいろんな障害があります。ウルトラ保守の市長の所では県民投票を実施しないかもしれないといっていますが、きっと実施できると思います。県民投票は県民の直接請求ですから、自治体が妨害することはできない。どこかで、きちんとした解決で実施できると思います。
 もっとも大きな民意、民主主義の一番大切な県民の意思がけっして権力の無体な抑圧には屈しないのです

平和的生存権と抵抗権

 沖縄において平和的生存権が根源的に侵害されています。日本国憲法前文には「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」これは全世界の人々の権利であるという規定です。このような思想を厳格な憲法条文としたのは日本国憲法だけであると言えると思います。なぜ、日本国憲法だけなのか、9条は日本国憲法だけが持っているからです。国家権力が戦力の行使など9条に違反した行動をした時、私たちは権利が侵害されたとして政府の行為をやめさせる、これが平和的生存権です。
 政府に平和の政策をとらせることが私たちの権利です。平和を人権としてとらえたイラク訴訟や市民平和訴訟、高江機動隊派遣違法訴訟などは平和的生存権を獲得していく重要なたたかいです。
 表現の自由への公権力の干渉とたたかう市民の抵抗行動は正当なものです。沖縄では文字通り政府と対峙した状況が続いています。抵抗権は立憲主義的な憲法秩序を回復する、このような抵抗権の持つ本来の役割は沖縄ではクローズアップされています。

地方自治体の役割

 沖縄では現在の安保条約が日本の国内法をほとんど排除していますので、米軍は事件を起こしてもほとんど裁かれないし、勝手放題です。政府が頭をアメリカに下げてしまっていますが、けれども地方の政府つまり自治体はそれにならわなくてもいいのです。自治体には条例があります。私たちは条例で地位協定と対峙することができると思います。
私たちはいま、運動を起こしているところです。普天間基地の近くの緑が丘保育園や普天間第二小学校への落下物、いまも解決していません。米軍機事故から市民を守るための市条例の制定を求め「宜野湾市平和な空を守る条例制定請願の会」は宜野湾市議会に請願書を提出し、継続審議になっています。
 日本の法令を米軍に適応させる、少なくともドイツやイタリアの地位協定と同じものにしていく、安倍政権はそこに踏み込む意思も能力もなく私たちは日本政府を変えないといけないですが、地方自治としての政府、どの自治体でも条例、民主的な法としての条例づくりに光をあてましょう。

日米地位協定と安保条約

 日米地位協定は、非対等性、従属性が特に強いです。
 他の国では、自国の法律、国内法をアメリカ軍に遵守させるという地位協定です。このような形で抜本改定をしていくことが不可欠であると思います。
同時に、とりわけて革新懇は、運動の展望を日米地位協定にとどめるのではなく、当然のこととして安保条約の終了を強く打ち出さないといけないと思います。 
 つまり、全国から米軍基地をなくすことです。その意味で沖縄だけではない全国の問題です。

建白書の高い倫理性

 関連して、東京都小金井市議会に市民からの陳情が議会で採択されたことについて、安保条約を承認している以上、それにもとづいて基地が造られているからその負担は全国で均等にすべきであるというものです。
どう考えたらいいか。
 オール沖縄の建白書は「県外移設」の要求はしていないのです。2013年の建白書で沖縄の全自治体と主要な団体、労働、婦人、青年、経済団体のオール沖縄の建白書が内閣総理大臣に提出されました。
 建白書はオール沖縄の最低限の綱領といえるものでオスプレイの配備撤回、米軍普天間基地の閉鎖・撤回、県内移設の断念の三点です。
 自分たちが受けている沖縄の不幸、苦しみを他の人が負うことによって、苦しみを解決することにはならない。他の人に負担をさせることは正しい解決ではない。高い倫理性をもった運動の論理だと思います。だからこそ沖縄の運動は未来に向いていると思います。
 沖縄にはたくさんの基地がありますが、沖縄県の人たちが願い、誘致して造った基地は一つもありません。アメリカ軍が造った普天間基地が古くなったからといって別の場所を準備せよということがどうして成り立つのか。辺野古の新基地をつくるということは絶対に出来ない。
 沖縄に全国で等しく基地を請け負うという考え方は解決方法として正しくはないし、もっと大きく全国すべての米軍基地をなくすという運動にならなれければならないと思います。
 安保条約は第10条で締結国の一方が他政府に対して条約の終了を通告すれば一年後に終了するとしています。必要なのは安保条約を終了通告する政府をつくることです。それは、遠い話ではありません。根本的で、歴史的な早道、近道であると思います。

改憲発議させない

 安倍首相の改憲論は内容、手続きとも重大な問題があります。
 自衛隊の明記ですが、これは全くの欺瞞です。専守防衛の自衛隊であるといっていますが、人々がそういうイメージを抱いていることをいいことにそのような自衛隊をただ書くだけだといっています。
 しかし、今日の自衛隊は集団的自衛権の行使をすでに認められ、海外とりわけアメリカとともに軍事行動をする十分な軍隊としての実体をもっています。決して災害救助の自衛隊ではありません。これを9条に書き込むことは9条2項は実際上死文化してしまいます。 手続きも大問題です。
 首相が憲法改正の手続きにかかわることは憲法99条と96条に違反します。首相として自衛隊明記を提起しました。そして、自衛隊の幹部にその訓示をしました。
 さらに、今度の臨時国会の所信表明演説に議場の演壇から、議員に対して改憲を鼓舞しました。安倍首相は自ら「私は立法府の長」と言っていますが、単なる言い間違いではない、三権分立を破壊する文字通り国会の上にたつ姿を示しています。
 私に言わせれば手続きを経ずに権力を取る、クーデターだ思います。
 やはり、憲法を守る3,000万署名に全力を尽くして改憲の発議をさせない動きをつくる、これが今のポイントです。沖縄からくみ取ることはたくさんあると思います。
 安倍改憲の阻止は、憲法が活かされる政治への展望を開きます。日本歴史は一歩前進を遂げることになるでしょう。

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