労組結成!! 安心して仕事が出来る場所がほしい
トヨタ系工場で「偽装請負」 低賃金・無権利状態
愛知県内のトヨタ系工場で労災・雇用・健康保険も有給もない「個人請負」という偽装請負で働かせられていた日系ブラジル人の小橋川ロベルトさんは、仲間と一緒に労働組合を結成し、愛知県労働委員会に不当労働行為救済申し立てをしました。労働組合の会議のあとお話を聞きました。通訳は松下忠豊さん(NPO法人「ラテンアメリカセンター」)です。
小橋川ロベルトさん 38歳(1968年)ブラジル生まれ 全日本金属情報機器労働組合(JMIU)BMG分会長。
「仕事させてもらっている」訳ではない
私は、日系三世です。1991年にはじめて日本に来ました。その後いったん帰国し2000年に再来日しました。
初めて来日した当時は、「仕事をさせてもらっている」という意識でした。でも、よく考えてみたら就労ビザをとって労働し、その正当な報酬を受けているのであって、「仕事させてもらっている」わけではないということに気づきました。
仕事を休むと給与がひかれる、なぜだろう。ブラジルの場合は休んでも医者の診断書があれば給料はひかれません。妻の働いているところは社会保険に入っていて「休ませてください」といえば有給で何の問題もありません。今のような状態では長く病気するとほとんど給料がもらえません。
会社に再三、雇用保険、社会保険に入れてくれと要求してきましたが、会社は拒絶です。
組合をつくって団体交渉で要求をもぎ取れないかと思っていた時、友人がたまたま全日本金属情報機器労働組合(JMIU)を知っていて紹介してもらいました。以前に、社会保険庁に直接いくことも考えましたが、手続上の問題や言葉の問題があって、むつかしいと思いました。
4、5年前に別の会社で労働組合をつくって会社と交渉した経験はありましたから、直接、労働組合に電話しました。大平さん(JMIU副執行委員長)に豊田まで来てもらい、少ない日本語で何とか通じました。
社会保険に入りたいというのは当たり前の要求ではないでしょうか。自分たちの要求が世間に知られ、なんとかできるという安心感というか、よし、これに懸けてみようという気持でした。
労働組合を結成、地労委に違法行為の是正を申し立て
何度も相談を重ね、2006年8月に労働組合を結成しました。個人請負契約の是正などを求めて請負会社ビーエムージーに団体交渉を求めました。
私たちは、労働者の基本的権利を要求しただけです。ところがビーエムージーは、「従業員らは雇用契約ではなく、それぞれ個人請負契約をしているから労働者ではない。団体交渉に応じる義務はない」、「社会保険に加入したり、有給休暇を認めるなどの要求に応じたら会社をつぶすしかない」といっています。
労組は、10月4日に愛知県労働委員会にビーエムジーが交渉に応じるよう、不当労働行為救済を申し立てました。会社側は、「申立人の立論は、被申立人側においても充分理解できる。」しかし、そうすると「倒産せざるを得ない」という開き直りです。本当にひどいと思います。
たいていの日本人は、外国人労働者は全く知識がないと思っています。しかし、ブラジルからくる労働者は労働法的な知識は充分もっています。労働法はブラジルでも日本でもそんなに違いはありません。こういうやりとりで言葉の問題が一番大変です。ポルトガル語を話せる人は少なく、大変だということで、NPO法人「ラテンアメリカセンター」を紹介してもらい通訳してもらっています。
無権利状態をやめさせるために
工場の中では上下関係が厳しく、日本人の労働者はあまり自己主張をしません。上司と議論して自分が納得いくのだったらその通りにやればいいと思うのですが、納得しないまま仕事をしています。あまりいい事ではないと思います。
私の母親も兄弟も日本に来ています。初来日から15年がたち、定住を決意し、日本への永住を申請していましたが、先週、永住ビザがおりました。 永住ビザがとれたのは一つの弾みではありますが、やはり何が一番必要だったかといえば、安定です。安心して仕事が出来る場所がほしいのです。年金や健康保険がなければ将来が不安です。子どもや家族のことも心配です。
日本の製造業全体で問題になっている「偽装請負」のなかでブラジル人労働者の多くは低賃金・無権利状態に置かれています。
ブラジルに渡った日本人がブラジルの社会で団結して一生懸命、自分たちの地位を確立したように、私たちもたたかっていきたいのです。
8月の結成時に9人の組合員はいま、13人です。もっと多くの人に組合に入ってもらい、こうした無権利状態をやめさせるために、たたかっていきたいと思います。
注――請負会社BMGは「中外」三好工場(愛知県三好町)と取り引きしてきた請負会社です。中外三好工場は、偽装派遣されたBMG労働者を受け入れ、トヨタの防音材などを生産しています。BMGは、2004年4月からブラジル人労働者全員との雇用関係を解消し、一人一人を「個人事業主」に変更。このため、働き方は何も変わらないまま、社会保険や雇用保険、労災保険、有給などの権利が奪われてしまいました。「派遣」労働者よりさらに無権利の「個人請負」契約が、トヨタ系部品メーカーの新たな偽装請負として広がろうとしています。