【08.04.10】弁護士 山内益恵 さん

私たちは一人じゃない 何も変わらないという前に 「やってみようよ」と言いたい

 
笑顔の素敵な弁護士の山内さん。日頃の弁護士活動を通じて、「だれもが生き甲斐をもって生活する」お手伝いをしたいとの思いを語っていただきました。

山内 益恵さん

1967年東京生まれ。弁護士。(名古屋北法律事務所)2児の母親として家庭の問題、子どもの問題に取り組む。

「パオ」をご存じ?

法学部を卒業後、就職。結婚を機に専業主婦となり子育てをしていましたが、一生続けられる仕事をしたいと法律の勉強を再開し、2004年に弁護士登録をしました。

 いま、社会のすみずみ、マスコミの光も当たらない所で様々な問題が起っていて胸が痛いです。

 社会の矛盾は、弱い者の所に集まります。

 親からの虐待などで安心できる家庭や、居場所がない子どもたちを支援するNPO法人「パオ」をご存じでしょうか。
 子どもたちが緊急に逃げ込むためのシェルター「丘のいえ」を運営し、弁護士や児童福祉関係者等がさまざまな機関・団体と連携して子どもたちをサポートし、社会に巣立っていけるよう支援をしている団体です。「パオ」は、モンゴルの組み立て式の家、吹き荒れる嵐から、傷ついた子どもたちが護られ癒されるようにという思いが込められています。一番安全なはずの家の中に居場所がないという過酷な現実を乗り越えなければならない子どもも少なくないのです。

失敗を許せない社会

子どもに非行があるケースでも、孤独であったり、友達に虚勢をはって見せたり、自分のポジションを取らなければいけなくて、思っていない結果が生じてしまう。

 警察や鑑別所で少年と話すとどの子もどの子もみんな素直です。

 試験観察という制度があって、補導委託といって、家庭裁判所が民間のボランティアの方に非行にあった少年を預かって頂くようお願いし、3ヶ月程度、その少年の様子を見た上で、最終的な処分を決めることができるのです。ところが委託先があれば少年院に行かずにやれそうな子どもがいても、なかなかその委託先がみつからない。

 若い人を少しずつ育てていくだけの余裕のある人が少ないと思います。

 子どもだけではなく、大人も失敗を許せない。みんな厳しくて、ぎちぎちになっているのです。弱い人を救い上げようという観点がすごく弱くなっている。それは、日本の福祉が弱くなっているということと一体です。

国の福祉の貧しさ

最近、民間の老人ホームのような所での虐待問題のご相談を受けました。この事件から感じることは、民間に福祉を丸投げしている国や自治体の福祉の貧しさです。

 福祉は、お金儲けや競争させてはいけない分野なのに、民間任せで、国などの指導や監督ができていない。家族は自宅で介護する余裕がなく、高齢者はそこにいるしかない。本当に貧しいです。

 また自治体の直営事業からの撤退も問題です。
「公から民へ」「民間の効率経営を」というと良いことのように聞こえますが、福祉分野で経済性を追求して、人間らしい生活はできません。

 名古屋市は、直営のホームヘルパー事業を実施していたのですが、2年前利用者との契約を打ちきり、ヘルパー派遣事業そのものを廃止しました。

利用者で全盲の視覚障がい者の梅尾朱美さんが契約違反による損害賠償を求めて裁判を起こしまして、私も代理人として関わっていたのですが、名古屋地裁は、3月26日、請求を認めませんでした。

 ホームヘルパーは、障がい者の生活の一部、その支援がない生活の苦しみをわかってほしい、と訴えたのに、実態を見ませんでした。憲法25条が保障する生存権についても国民の具体的な権利としての面を軽視した、不当な判決だと思います。

一人じゃない!

壁は厚いです。一人で考えていたらどんどん、裂け目が大きくなっていく。でも私たちは、一人じゃないんです。

 行動しても変わらないと思っている人が多いと思いますが、行動しなければ、何にも変わらない。

ホームヘルプ契約打ち切りに対する梅尾裁判は、多くの支援する人々が集まって運動を進めました。梅尾さんは、力を合わせて一つ一つ行政を変えてきた方でとてもしなやか。

 ある保育園の日照権問題に関わり、父母の力でマンション計画を断念させましたが、行動したら変わるということを私ももっともっと経験したい。 一人ひとりが尊重され、子どもも高齢者も障がい者も労働者も、生き甲斐を感じながら生活していく、そのお手伝いができればと思っています。

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