【08.09.10】竹田 嘉兵衛さん (有松しぼり 株式会社竹田嘉兵衛商店取締役社長)。

アメリカ流でない新しい価値観を

 
 今年、有松開村四百年。テーマは《すべては誇りうるふるさとのため、みらいのために》。
名古屋市「有形文化財」に指定されている有松絞りの竹田嘉兵衛商店を訪ね、小学校から幼なじみの中島信行さん(平和・民主主義・暮らしをまもる緑区懇談会事務室長《緑区平民懇》)とご一緒にお話しをうかがいました。 

竹田 嘉兵衛さん

 1940年名古屋市緑区有松生まれ。慶応大学商学部卒業。伊藤忠商事勤務。
 現在、株式会社竹田嘉兵衛商店取締役社長。愛知県絞り工業組合理事長。全国伝統産業協会理事。

開村400年の歴史

 1608年、尾張藩の御触書によって開村しました。ここは、人家もなく非常にさびれた所でした。尾張徳川家のお触れで、阿久比の商家竹田庄九郎以下8名が移住しましたが、土地は粘土質で、農業には不向き「東海道には人が通るからモノを売ろう」と苦心惨憺と考え出したのが有松絞りの始まりといわれております。

 有松絞りは、名古屋城築城に来た九州の侍や人夫が絞りを着ており、それをみた庄九郎が作りだしたというのが一つの説。もう一つはこの地域で「辻が花」絞りが作られていたという考え方です。ただ、はっきりした文献がなく、どちらが正しいのかよくわかりません。両方の要素があったのかも知れません。

 それを動かしたのは木綿という繊維です。1500年代後半に、日本で木綿の栽培が成功。知多半島の一部、矢作川にかかる地域で初めて成功しました。竹田庄九郎は、知多の阿久比出身です。木綿を知り、手に入れる方法があったと思います。

 当時の最新の繊維木綿を手に入れ、当時の最新の技術であった絞りをして売ったのですね。尾張徳川家が有松絞りを藩の特産品として保護し、発展してきました。当時はハイテク商品であったでしょうね。(笑)

絞りとは

 専門的な話になりますが、1992年第一回国際絞り会議が日本で開かれインド、エジプト等で紀元前にはじまり現在も世界中に存在する 二千年以上続いた絞りの美しさの「本質」は何かと議論がありました。本物の藍染めは、様々な色が入り交じって藍という色の波動として目に入ってくる。化学染料の藍染めは、光の波動は単純な藍色だけで、色相は同じに見えますが、美しいのは本物の藍です。 光の波動が複雑なほど人間の目には柔らかく美しい色と認識するのです。「絞りは布の凹凸がつくる複雑な光の波動が美しい」との結論でした。

 インドの絞りの歴史は紀元前十世紀くらいからと古く、現在、百万人以上の職人がいますが技法はわずか二種類です。有松絞りはたかだが四百年ですが、百ぐらいの技法があります。明治維新の厳しい時期を特許、実用新案など新しい技術を生み出し乗り越えたのです。他の伝統的工芸産業と比べ、技術開発をやり続けた地域です。物づくりの素地のある地域だったのではないでしょうか。

日本の伝統的文化発展のために

 経済産業省の認定した伝統的工芸品産地は二百十一です。現在は、戦後の全盛期に比べて8、9割生産減です。なぜこんなに減ってきているか。これは、日本人が日本的価値観を棄てて、アメリカ的価値観をよしとするようになったからです。 私の子ども時代、日本は貧乏でした。戦争に負け、食うものもない、進駐軍からチョコレートをもらったとき、世の中にこんなに美味しいものがあったのかと思いました。ハリウッド映画を見て「これはパラダイスだ」とイモを食いながら考えるわけですね。(笑い)アメリカはすばらしい国になっているのです。そして多くの人たちがアメリカ的価値観を受け入れ、アメリカ式の生活形態をはじめました。

 一方通行の情報の中で日本的価値観が否定され、その結果、日本の伝統産業は全滅寸前です。もう一度、日本を見直すことが必要だと思います。
 市場原理主義的なアメリカ流のやり方では、資源、環境問題を引き起こし、未来は決して明るいものではないと思います。

 1980年代くらいまでは日本はなかなかいい国だったと思います。戦後、貧乏の中にも明るい未来を信じて皆が一生懸命働き、世界一豊かな国になりながら今ほどの格差はなく、犯罪の発生率は少ない、武力を使って他の国を脅かすことは一度もなかった。
 簡単ではないですが、アメリカに勝るものが日本にも沢山あるとの新しい価値観を皆が持ち、日本文化の素晴らしさを再発見する時に日本人の価値観も変わり、伝統的工芸品産業も息を吹き返すのではないかと思います。

 どうしたら未来があるのか。主義主張を超えて、真剣な議論が必要ではないでしょうか。

 プラスチックもいいですが、輪島塗りのお椀もいいです。値段もいいですが、長く使えますね。(笑い)本物の美しい、良い物を長く使うという生活習慣は資源問題や環境問題の解決の一助になると思います。町並み保存も古いものには日本の良さや美しいものがあることを認識していただかないといけないと思います。有松開村四百年記念事業も、そういうことを目的としてやっています。

国民のレベルで政治は決まる

 国民のレベルで政治は決まると思います。日本の文化力が上がれば、物づくりにも、政治にも反映されていくと思います。勿論、政治家にも要求しなければいけないのでしょうけれど。きちんと判断できる国民が、いい国をつくっていくと思います。

 昔の日本人は、事業をおこす時に世の中の役に立つかということが判断基準だったようです。

 今は、儲かるということが判断基準になり「儲けた人が偉い人」はおかしいことです。本当の価値の創造が忘れられる心配があります。
 物づくりとは、「つくる心」と「かたち」です。「心」以上の「かたち」は絶対に出てきません。そういう意味での文化力が政治をつくり、ものや社会をつくっていくと思います。

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