【09.02.10】インタビュー 藤本博(南山大学教員)さん

一国覇権主義の流れ変わる 過渡期の入口に立つアメリカ「軍事力によらない」国際社会の世論形成を!

1月20日、200万人もの人々が集まりアメリカでは、オバマ新大統領が誕生。ブッシュ政権から、何が変わるのか。日本の果たす役割はなにか、など、アメリカ外交を研究する藤本博教授にお話を伺いました。

藤本 博さん

南山大学教員。1949年生まれ。現代アメリカ外交とべトナム戦争などを研究。愛知県立大学英米学科、明治大学大学院博士課程単位取得満期退学。

物事の本質を見る目を

「エンタープライズ佐世保入港を知らないでのんきに卒業していいのか。」高校卒業間近のホームルームでの友人の発言に、政治的に無関心だった私は、恥ずかしい思いをしました。

ベトナム戦争激化の1968年に大学に入学後、なぜ日本はアメリカの戦争に協力するのかに疑問を抱き、アメリカ外交の研究に関心を持ちました。

本多勝一氏が「殺される側からみると本質がわかる」と言いましたが、社会的弱者の立場からみると、本質が見えてくることを知ったことは非常に大きかったですね。

40年間の右旋回からようやく歯止めが

オバマはなぜ勝利したのか。一つは、アメリカの対外的政策が行き詰まり、しかも金融危機をもたらした新自由主義路線を変えないと自分たちの生活の将来がないと人々の期待が集まったと思います。

 アメリカは、ベトナム戦争の挫折が明らかになった68年に大きく変わるチャンスがありました。しかし、68年にリベラル派上院議員ロバート・ケネディや公民権運動指導者キング牧師が暗殺され、その後、保守派が台頭し、カーター、クリントン時代を除き、共和党時代が延べ28年間続きました。

 ですからより広い意味では、69年から40年間のアメリカの右旋回にようやく歯止めがかかったということでしょう。

 2つめは、「すべての人間は平等」の独立宣言の精神を失ったアメリカを再生しようとの訴えに国民の期待が広がったと思います。

 オバマは、イスラム世界との共通の利益を強調し、テロリストを文化力と外交力で孤立化させていくと演説しました。テロをつぶすと言ったブッシュとは対照的です。軍事力信仰が強いアメリカ社会でいきなりそういう発想になるのは難しいとは思いますが、ブッシュ政権の一国覇権主義の流れが変わるのは確かです。

 3つめは、若者の力です。アメリカに留学しているゼミの学生に聞いたら、多くの若者のオバマ支援グループが、「選挙人登録をしよう」、「投票にいこう」と呼びかけたそうです。選挙中、インターネットでオバマのHPに意見を求めるとすぐ返事が来る。顔が見えないが心の通い合いができる。オバマのHPをみると「ハリケーン・カトリーナで被災した人たちを支援しよう」とあってクリックすると寄付が自動的に出来、小さなことで協力できる、参加の意識をもつ。就任演説の時には、大きな大学ではライブで演説を聞く会が開催され、教授たちも休講で対応したそうです。今回、出口調査では18~29歳の若者の66%がオバマに投票したと言われています。

国際社会の世論形成が重要

アフガニスタンへの増兵は、結局、暴力の連鎖です。パキスタンの大統領もカルザイ大統領もさらに悪化するだけだとアメリカの越境空爆に反対しています。

 アメリカのブルッキングス研究所の世論調査でも2007年「アフガニスタンへの派兵はよくない」が5割を越し、2005年の調査時と逆転しています。

 21世紀は、どういう国際社会をめざしていくのかというビジョンがないと、かえって軍事力を高めてしまうことにつながってしまいます。 アメリカの軍産一体化の構造は、いきなりは変わりません。しかし、変わる過渡期の戸口にあると思います。

 オバマを支持した人たちがどれだけ政府を監視していくのか、アメリカ国内だけでなく、国際社会の世論形成が重要ではないでしょうか。とりわけ日本は、非常に重要です。アメリカに追従し、どう貢献するかばかり考えている日本の発想の転換が必要です。今後のオバマ政権の方向を注視し、軍事的悪循環には、批判が必要です。

被爆国日本の重要な役割

 特に、核兵器廃絶問題については、被爆国である日本が最も貢献できるところです。

 オバマ氏は核兵器のない世界をめざすと主張した初めての大統領です。しかし、非核の世界実現には国際的世論の高まりが不可欠です。2010年の核不拡散条約(NPT)再検討会議を前に、「核兵器廃絶を」の国際的世論を大きくするときです。オバマ氏が、新型核兵器をつくらず、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を議会に求めると主張していますが、問題は、最大の核保有国であるアメリカとロシア、特にアメリカが自国の核兵器を廃絶する方向にいけるのか問題です。

 日本の秋葉市長や被爆者団体らが、オバマ氏の広島訪問をと呼びかけていますが実現できることを期待しています。アメリカ歴代大統領で誰一人訪問していませんから。

 広島市長の秋葉さんが任命した財団法人広島平和文化センター理事長でアメリカ人のスティーブン・リーパーさんは、大統領選挙の期間中、全米50州で各州2つの都市と首都ワシントンの101の市で核の惨状を訴えて原爆展を企画しました。やはり、被爆者、戦争体験者の声、苦しみに耳を傾けることは戦争の実相を語る上でとても大切で、小さなことかもしれないですが、こうしたアメリカの良識ある人々とのネットワーク、草の根的つながりをつくっていくことは、世論形成の上で大切です。

人々との交流を通じて「平和を育む力」を

軍事力以外の手段で人間の幸せを追求する、人が大切にされる社会を、自己実現をすすめながらどうつくっていくのか、非常に難しい時期でもあると思いますが、何を軸に考えていくのか重要です。

 得てしてこういう時期には経済危機がすぐ解決しないのでナショナリズム、ファシズム的な方向をもとめる風潮もあり、田母神前航空幕僚長などの発言がもてはやされたりして、岐路にあると思います。

 私は、学生のみなさんに、能動的に社会をつくる。そのためにはどうしたらいいか、自分で手足を使い、情報を集め、体験して欲しいと思っています。知識のみではなく、「平和な世界を育む知恵」を身につけてほしい。そのためには、戦争犠牲者や社会的弱者、大切な問題に手をさしのべている人々と交流することだと思います。

 「セイブ・イラクチルドレン名古屋」や広島平和文化センターのスティーブン・リーパー理事長、ソンミ村で「平和・共生」の活動を行っているベトナム帰還米兵との交流の体験を通じて、若者が「平和な世界を育む力」を身につけて欲しいと願っています。

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