【10.02.10】インタビュー 小林武さん 見抜こう!「民主主義的独裁」手法! 河村「改革」議員定数半減

市民の力で民主政治を守ろうと今年1月8日、『民主政治を守るために、議員定数の半減に反対しましょう!』と13人の著名人が連名でアピールを発表

 
議員定数半減を中心とする河村市長の「議会改革」は、強権政治への道。市民の力で民主政治を守ろうと今年1月8日、『民主政治を守るために、議員定数の半減に反対しましょう!』と13人の著名人が連名でアピールを発表されました。 この問題について、小林武さんの研究室をたずね、お話をお聞きしました。

小林 武さん

1941年生まれ 愛知大学法科大学院教授。憲法・地方自治法を専攻

強権的な政治体制づくり

いま、河村たかし市長は「議会改革」を強行しようとしています。
 とくに議員定数半減は重大で、13人のアピールには私も呼びかけ人の一人として加わりました。

 議会が住民を代表するのに充分な議員定数を持つことは当然です。名古屋市の場合、法定上限数88人に照らしても現在75名と少なく、それをさらに半減する合理的な理由は全く見当たりません。他の政令指定都市でも半減はどこにもありません。議会機能の低下、民意の反映を削減することになるこのような提案は、到底認めることができません。

 そのためには、河村「改革」の手法の特徴を見抜くことが重要です。市長への権力集中、強権的な政治体制づくりのために民主主義の制度を使う、「民主主義的独裁」ともいうべき、きわめて危険な手法です。あとで少しくわしくお話しします。

議会と首長―議会が第一義的な代表機関

 憲法と地方自治法では議会と首長は、どちらも住民による選挙で選ばれる「二元代表制」をとっています。 両者の関係は、実は、議会のほうが第一義的な住民代表機関です。憲法では、第8章地方自治(92条から95条)の中で、議会と首長がどういうかたちで登場するのかというと、「議事機関として議会を設置する」(93条)と、第一義的代表機関としての議会のあり方が明確にされています。首長は、公選されると定められているだけです。にもかかわらず、実態としては、たいていの自治体で首長が圧倒的に優越しています。

 しかし、河村氏の認識は、大変奇妙ですが、「議会のほうが王様になっていて市長の政治を邪魔している」というところにあります。「だから議会を抑えなければならない」と主張するのです。

「議会改革」の狙いは 議員定数半減

 河村市長の「議会改革」提案は、議員定数半減だけでなく、議員報酬の半減、政務調査費廃止、費用弁償実費化、党議拘束の撤廃、多選制限(自粛)、市民の意見表明機会の保障など、多様で多面的な内容です。中心のねらいは、議員定数の半減にあるといえます。

 ただ、河村氏は、常に市民に受け入れられることを考えています。特に議員報酬はじめ議員の収入が多すぎるという彼の訴えは、市民の賛同を得て拍手喝采を受けています。これを直視しておかねばなりません。議員定数半減もこれとセットで出しているのです。要注意です。

 本来、議会改革は議会自身が自主的にやるものです。市長がイニシアチブをとるのはもってのほかですが、議会自身が高い志としっかりした自覚をもって市民に訴えることができないのであれば、市長のいうように、議会は、市民の声を聴かない場所だと市民からみなされてしまいます。そうなれば、結局、市民の期待や要求は市長に向かわざるをえなくなり、具体的な決定は議会ではなく、ボランティア組織である「地域委員会」にまかせるという、河村氏の思いどおりの事態となります。

 いまこそ、全議会の、市民に顔を向けた奮起が求められていると思います

民主主義を用いて強権的政治体制づくり―河村「改革」の巧みな手法

 河村氏がとろうとしている手法は非常に危険なものであることに留意したいと思います。直接民主主義の諸制度を使い、議会を抑え、市長に権力を集中させる政治体制をつくるという手法です。

 それは、市民を動員して”三の丸改革”を進めるという、大掛かりな戦術として出されています。1月11日の朝日新聞が伝えていますが、2月市議会に市長が「議会改革」条例を提案する。ところが市議会は、市長案を否決するものと見込まれる。そうすると市長は、市長案と議会自身の改革案の2つのうちどちらがいいのかを住民投票にかける。そのために議会に住民投票条例の制定を求める直接請求に入ります。この請求は、有権者の50分の1でできます。名古屋の場合は3万6千人です。市議会がそれを否決すると、今度は市民の声を聴かない市議はリコールに値すると、議会解散の直接請求を開始し、必要な有権者36万5千人の署名を目指すというものです。

 こうした戦術を編んでいるのも、市長に当選した時の51万票が彼の念頭にあることとともに、市民の多くがもっている議会不信の念が土台になっていることを見落とすわけにはいきません。

 中学校の社会科でおたがい習いましたように、住民投票や条例の直接請求、議会の解散請求などの直接民主主義的な制度が、地方政治には採用されています。これは、本来は住民の武器として置かれたものですが、河村氏側は、それを逆手にとって、統治構造を変えるために議会と戦う道具として用い、住民を動員しようとしているわけです。

 なおこの際、国民投票・住民投票の直接民主主義の制度が独裁を正当化するために用いられる危険性を常にもっていることにもあらためて注意しておきたいと思います。住民投票をとおして独裁者が誕生するということは、歴史上しばしばみられました。独裁を正当化するために用いる住民投票を「プレビシット」と呼びますが、今回はその典型だといえます。議会の死滅を招く危機的な事態には、いくら警戒しても警戒しすぎることはありません。

ポピュリズム(大衆迎合)の危険

河村氏は、ポピュリズム、大衆の心をつかむ手法に非常に卓越しています。

 市民税一律減税の財源はと問われると、市職員の給与引き下げや定員減を持ち出します。議員の給与の半減なども同列です。河村氏が示す政策は、目に見える、わかりやすいものであることが特徴です。それによって市民の共感を獲得し、市民を動員して権力を握るという手法です。またしばしば、「日本初」ということを言って、名古屋市民の心をくすぐります。こうした手法が実に巧みで、新聞などは、「市長の答弁は支離滅裂」としながらも、「市長はメディアの人気者」だと報道しています。

 それで、河村氏が市民に迎合する段階は過ぎて、市民のほうが彼に接近したがっているという、ポピュリズムへの市民の積極的同化の現象が出ています。しっかり留意しておきたいと思い
ます。

河村「議会改革」と小沢「国会改革」どちらも政治のしくみをかえる狙い

 国政では、小沢=民主党の「国会改革」が進行していますが、河村「議会改革」と本質が共通しています。

 河村氏の場合、今回の提案を序の口にして、将来展望として、市議会選挙の小選挙区制、議会の発展的解消という方向を示しています。憲法上、議会は議事機関と定められているので、なくすことはできませんが、有名無実化をはかっているわけです。

 さてかたや、国会ではどうか。小沢氏は、いま、官僚答弁の禁止、法制局長官除外、政府・与党の一体化などを進めています。その先は単純小選挙区制と憲法改正です。民主党は、もともと改憲政党で、いまの状況がちょっと変われば改憲に突き進んでいく。

 両者の共通点は、国と地方で、政治のしくみの大もとを、国民・住民代表議会を空洞化して執政者への権力集中をはかるという形で変えていくところにあります。こうした本質をしっかり見抜いて、取り組んでいくことが大切です。

議会の自己改革がカギ

いま、議会が、自ら、全会派共同の意思で、自己改革の姿を市民に示し、議会への市民の信頼を得るということがなにより必要ではないでしょうか。

 そのために、議会、そして個々の議員が、これまで市民の代表として市民のための十分な活動をしてきたかを厳しく省み、その上で自らの手で議会改革をはかること。これが現今の課題のカギとなるものではないか、と考えます。

一緒に考え、行動を

私たちはどうしていくのか。市長側が市民を動員し、住民投票に向かう提案をしようとしているときに、これに対抗する方針と力を持たなければなりません。私たちが市民をどれだけ獲得できるかが課題です。
 くらしや福祉を守るためには住民の第一義的な代表機関である議会が必要だ、と市民が認識したときにはじめて、展望が開けてくるのではないでしょうか。
 これをどのようにすすめていくのか、ご一緒に考え、行動しましょう。

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