【10.11.10】この人に聞く インタビュー 池住義憲さん 「市民の抵抗権・リコール権を権力者が行使」

市民の視点での「熟議」を

 
「憲法の保障された地方自治を否定し、市長の強権政治に道を開く議会解散・リコールに反対する14氏の会」のひとりである池住義憲さんに、市長主導の市議会解散・リコールをどう見るのか、お話しを伺いました。

池住 義憲さん

1944年生まれ。35年のNGO活動を経て、現在、立教大学大学院教授。南山大学、南山短期大学、愛知県立大学大学院、名古屋学院大学などでも非常勤講師。元・自衛隊イラク派兵差止訴訟の会代表。

民主主義の崩壊へつながる「二元代表制」の否定

 河村市長主導の議会解散・リコールの重大な問題は、権力者の意が通る議会構成をつくるために、市民の最後の抵抗権でもあるリコール権を権力者として行使したことです。しかも、翼賛議会をつくるためにマスメディアを動員し、ポピュリズムをうまく活用してすすめられた。これを許せば、民主主義の崩壊に繋がっていきます。

 河村市長は地方自治の基本である「二元代表制」を否定しています。これは市長の強権政治に道を開くことにつながります。日本は過去に全ての権力が集中し戦争に突入した経験から、日本国憲法は独裁を許さないためのシステムを保障しているのです。

 市政運営にあたっては、議会と市長はそれぞれ直接選挙で選ばれ、予算編成権・執行権をもつ「首長」と拒否権を含む審査権・行政の監督権を持つ「市議会」が、多様な民意を反映してチェックし監視する機関ですから意見が合わないことを前提にしてスタートしています。

多様な民意を反映する「熟議」をすすめること

 今必要とされているのは、市民自治の最も基本である二元代表制を守ることです。民主主義の根幹は、意見はそもそも違うもの、それを話し合いによって対話をしていく、多様な民意を反映する「熟議」をすすめることです。

 英語で「Compromise」という言葉があります。日本語では「妥協」と訳されやや否定的な意味合いですが、語源は「Com(共に)」と「Promise(約束)」の2つのラテン語から構成されています。「共に約束をする」ということです。意見の違う市長と市議、市議の中でも意見が違います。これを「熟議」して主張し合う。それでも平行線のときは、どうするか。市議会側も歩み寄る、市長側も歩み寄る。それでも折り合いがつかない場合は、さらに歩み寄る。一致点が出てきたら、現段階ではこれでいこうと両者が共に約束をする。多様な考え方が出合って弁証を繰り返し、一致点を創り出す。これが政治です。

 ところが今回のリコールは、権力者が住民の武器を利用して翼賛議会化、つまり“多数決民主主義”体制づくりです。これは、地方自治の趣旨と相容れません。 もちろん署名の集め方に不正があってはいけませんが、ことさらマスコミがこの問題を大きく取り上げ、根本問題である市長主導のリコールがどのような問題があるのか、見えにくくなっています。

民主党政権の狙う地方自治法改正は?

 同時に見ておかなければならないことは、民主党政権が来年の通常国会で、地方自治法改正案を提出することを検討していることです。内容は、二元代表制を採用するか、市議が行政執行機関に加わるという「議員内閣制」を採用するかなど5つのパターンをつくって、各自治体にどれを採用するか選択できるようにするというものです。

 市民生活、社会的・経済的に押しやられている人たちのためになにができるのか。どうしたらいいのか「熟議」を市議会で行い、実行するのが市長です。こうした努力をせずに、ねじれを解消して円滑に波風を立てないようにというのは、民主主義否定の議論に繋がります。名古屋の動きと合わせてみると、民主党政権が考えている地方自治法改正案は根本的な問題で、私は危機感を持っています。やはり、時間がかかっても「熟議」というプロセスを大事にしてすすめる。これが政治であり、こうした方向こそ重要です。

真の民主主義を実現するのは市民

 市議会はこれまで「チェック&バランス」という責任・役割を放棄し、日本共産党を除き、オール与党体制でした。市議会は市長の追認機関と化し、双方馴れ合いで二元代表制を蔑ろにしてきました。市民の中に市議会への怒り、不信が広がっています。

 いまやっと、市議会がチェックと監視をはじめました。市議会は全会一致で「名古屋市議会基本条例」を制定し、第一歩を踏み出しました。私たちも、市議会・市会議員の役割は何か、首長とどういう関係にあるべきかということに目が向いてきました。

 地方自治法で定められている二元代表制を担える首長と市会議員を私たち市民が育て、送り出していく。選んだあとも市議と首長を私たちがチェック・監視し、それぞれから逐次市民に報告させる。「多数決」民主主義でなく、多様な意見を反映し、熟議をとおして法に基づいて決めていく「立憲」民主主義を目指すのです。これが真の民主主義の姿です。そしてそれを実現するのは私たち市民です。

市民の生活、福祉充実の視点にエネルギーを注いで

 今必要なのは、議会基本条例に示された市政運営改革の理念・方向・内容を具現化することです。市長・市議会は、そのために「Com(共に)」「Promise(約束)」を市民の生活、市民の福祉の視点に立って熟議してほしい。そのことにこそ、エネルギーを注いでほしいと思います。

 *「お忙しいのでは」とおたずねすると、「特に忙しいとは思わない。なにをするの かの選択肢は多くもっていますが。自分は自分以上になれない。自分以下に卑下する必要もない。自分は自分。後悔はしない。いまこう思ってやった事が自分であり、次はそれを活かせばいい」と。
 「趣味は、将棋・スポーツなどの観戦。それと、ビール!」

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