【19.04.10】下澤悦夫さん―平和憲法の精神を日本社会に!―使命をもって

 
下澤 悦夫 さん

1941年生まれ。元裁判官。無教会派クリスチャン。「安保法制違憲訴訟の会あいち」原告団共同代表。60年安保闘争の年に東大に入学し法学部に進学。1966年青年法律家協会(青法協)所属裁判官。

平和憲法の精神を社会に

 私は1966年4月、24歳で札幌地裁裁判官として、その任に就き、2006年8月30日をもって65歳で定年となり退官しました。
 退任後、弁護士を職業とする人もいますが、弁護士登録はしませんでした。それは私の信念です。
 任官当時、法曹界には護憲を掲げる青年法律家協会(青法協)が、平和と民主主義を守ることを目的とし
て活動していました。
 私は学生時代から教会をもたない無教会派クリスチャンです。東京大学で小林直樹教授から憲法学を学びました。日本国憲法の平和主義、国民主権、基本的人権を重視し、平和憲法の精神を日本社会に根付かせることが自分の使命と考え、その使命を果たすために裁判官となる道を選びました。

青法協会員裁判官として社会変革の活動を志して

 青法協に加入し、最後まで青法協会員裁判官として活動してきました。
  当時、青法協裁判官部会の会員数は300人くらいでした。判事補(任官後10年未満の若手裁判官)の三分の一が会員でした。
 私は学生時代から自衛隊は違憲であり、なんとかしなければいけないとずっと考えていました。40年間の裁判官生活を通じて取り組んできたことは、裁判所が自衛隊の違憲・合憲の司法判断を示すことでした。
 私が在任した間に自衛隊違憲・合憲を争点とする3つの裁判が行われました。そのなかで憲法9条違憲を正面から判断したのが1973年長沼ナイキ基地訴訟判決です。この裁判の担当裁判長福島重雄裁判官に対する裁判干渉、司法反動の動きがおこりました。青年法律家協会所属の裁判官が「徒党を組んで裁判を偏向させている」という攻撃が右翼陣営からおこり、青法協からの脱会勧告、弾圧が行われたのです。その結果、1984年に青法協の裁判官組織は壊滅させられました。
 私は元青法協会員裁判官として裁判所内部にとどまり、裁判官の再任問題及び休暇問題に関して最高裁の方針に異議申立をし続けました。そのために、私は定年退官するまで差別的な人事処遇を受けてきました。
 現在まで、砂川事件最高裁大法廷判決の「統治行為論」を拡大解釈して、裁判所は自衛隊違憲・合憲の判断を避けてきています。嘆かわしい事態です。

裁判官の市民的自由の保障が不可欠

 現状を打ち破るためにドイツの裁判所や裁判官団体を視察、調査し、日本でも労働組合的な性格をもつ裁判官団体を設立しようと考え、1999年9月に現職裁判官20名で「日本裁判官ネットワーク」を結成し、今も少数ですが活動を継続しています。
 真の司法改革実現のために、国民の立場にたって、権力に忖度なく判決を出すには裁判官の市民的自由の保障が不可欠です。裁判官が団体を結成し自由に活動できることが必要です。

安保法制違憲訴訟

 元裁判官の友人から声をかけられて、安保法制違憲訴訟の原告として加わりました。
 原告に名前を連ねることには抵抗もありましたが、法の支配が揺らいでいる中、後輩の裁判官に最後の勇気を振り絞って憲法判断をしてほしいとの思いで原告に加わりました。
 この訴訟の特徴としては、全国で何人かの元裁判官が弁護団として、あるいは原告として関わっていることです。こうした裁判は非常に珍しいと思います。それは、いまの時代がかなり危険な状況になっているとみんなが思っているからでしょう。元裁判官も加わっているのもそういう思いがあるのではないでしょうか。
 安保法制違憲訴訟は現在(2019年3月)、25の地方裁判所に提訴され、それらの裁判の原告総数は全国で7,675名となり、「安保法制違憲訴訟全国ネットワーク」で繋がっています。
 愛知では昨年8月2日に第一次143名。9月14日に第二次78名が提訴し、合計221名の原告で裁判が始まりました。裁判の主役は原告です。
 思想、立場を超えた人びとが一つに繋がれることは裁判のいいところですね。こういう機会を通じて原告同士お互いの理解が深まります。私としては、いろんな人の考えを聞くことができて有益です。革新運動に生涯をかけてきた人たちと知り合いになることもできました。

繋がり支えあって

 憲法81条によって裁判官には違憲法令審査権が与えられています。裁判官は、安保法制が違憲か合憲か判断する権利と義務があります。その責任を放棄してはなりません。
 つぎつぎと全国で裁判が続きます。運動が波及し、若い人たちに受け入れられるアピールをしていくことができればいいと思います。
立憲主義を踏みにじり、なし崩し的に戦争への道を進む安倍政権のもとで、一人ひとりが孤立させられています。安倍政治の危険性を共有し、グループを作り支えあって運動を進めていくことが必要です。繋がり支えあうことによって、安倍政権を追い詰めることができるのだろうと思います。

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