
関西学院大学教授。専攻は日本政治思想史。全国革新懇代表世話人/原水爆禁止世界大会起草委員長/著書に『維新政治の本質 組織化されたポピュリズムの虚像と実像』『憲法が生きる市民社会へ』など
被団協がノーベル
平和賞の意味
昨年の原水爆禁止世界大会国際会議で、被爆者木戸季市さんが「今、核戦争が起こるのではないかという恐怖を覚える。人間として死ぬことも、人間らしく生きることも許さない核兵器は、人間の尊厳の問題です」と話されました。被爆80年を前にして、被爆者にこんなことを言わせてしまい、僕はこの言葉を絶対忘れてはいけないと思っています。
昨年、被団協がノーベル平和賞を受賞しました。なぜ被爆80年ではなく、79年目だったのか。もう一度立ち上がれ、そういう意味での受賞だと思います。
私たちは今、核抑止力論とたたかっています。その本質は、報復と脅迫、恐怖で人を縛ることです。これを克服する唯一の道は、それがいかに非人道的なことだったのか、を広げることです。被爆80年の今年、被爆者とともに、被爆の実相を広げていくことを、私たちの課題にしてい
きたいと思います。
自民党が
溶け落ちている
いま、恐るべき世代間分断が進められています。SNSを通じてとんでもない拡散がされ、政党支持状況を大きく変えています。背景にあるのは、日本国民がどんどん貧しくなっていることです。世界は給与水準が上がっているのに、日本だけ全く上がらず、実質賃金が下がり続けています。一方で、猛烈に物価が上がり、特に米が昨年の倍です。そして、全ての根源に格差があります。そんな中で、裏金問題が起きました。
なぜ、こんなに国民の怒りが湧き起こったのか。萩生田氏の事務所の引き出しには3千万円の裏金が。これは、日本人の平均的な給与の10年分、非正規で働いている人の15年分です。それが机の引き出しにあったという、国民のそういう怒りです。
自民党員の4割は岩盤保守層と言われています。安倍氏は、ネット右翼や宗教右派の人たちをかき集めて、接着剤の役割をはたしていました。そして若い世代の支持の高さや金融緩和、人事による支配が安倍政権を支えてきました。
安倍氏が亡くなり、裏金問題で安倍派は壊滅、自民党から岩盤保守層が溶け落ちていきました。
さらに若い世代の劇的な自民党離れがすすみました。コロナで一番割りを食ったのは特に学生で、飲食店等の時短営業・営業自粛で、一番に首を切られました。若者たちは、日本の社会・政治は、本当に冷たいという感覚になり、自民党から離れました。
若者たちと岩盤保守層の争奪戦が展開され始めています。
石破氏のジレンマと
自民党の大敗
自民党総裁選では、政治ジャーナリストなどが全く予想できなかった事態が進行しました。SNSやYouTubeでは、高市氏を推す嵐が吹き荒れ、これによって高市氏はいったんトップに。それに危機感を持った自民党員たちによって、石破氏が総裁の座を射止めました。高市氏の敗北で、岩盤保守層は劇的に自民党から去っていきました。
石破氏は、らしさを貫くと、岩盤保守層が完全に自民党から離れてしまう、らしさを捨てたら、総裁に押し上げられ…。
典型的だったのは、総裁選では「裏金議員は推薦しません」と言い、ふたを開けたら相当数を推薦、しかも推薦しなかった人にまで2000万円ずつ配布されていました。これがとどめとなり、衆議院選挙で大敗することになりました。 石破氏は、結局、優柔不断で適切な判断ができず、自らの首を絞めていったということになります。
衆議院選挙では、自民党・維新から剥がれた岩盤保守層のうち、300万票が国民民主党にいき、参政党や保守党は大した受け皿になりませんでした。
カギは選択的夫婦別姓
国民民主党玉木氏が、若者の手取りを増やすこと、高齢者医療や終末期医療の見直し、尊厳死の法制化などを掲げて、世代間分断がSNSを通じて広がっていきました。自民党・維新等から溶け落ちた岩盤保守層がここに集中したということになります。
この後、石破氏は政権運営でジレンマに陥って玉木氏を選び、立憲民主党の安住氏は、自民党と岩盤保守層を分断し、二度と岩盤保守層が自民党に戻らないように手立てを考えました。 その焦点になったのが選択的夫婦別姓です。岩盤保守層の主張は、伝統的家族の価値を守る、男系男子天皇を守りたいということで反対。選択的夫婦別姓を実現するかどうか、参議院選に向けての重要な争点です。自民党の中で党議拘束をはずして踏みこませると、自民党が完全に分裂します。国民民主党は、支持層の半分が岩盤保守層です。連合との間を引き裂けば、国民民主党は純粋に岩盤保守層の党になってしまいます。選択的夫婦別姓は、今、岩盤保守層側にたつのか、そうじゃないのかということを見分ける役割を果たしています。今や、経団連も連合も推進しています。玉木氏は、岩盤保守層が離れるのも嫌ですから、ひどいジレンマに陥ってます。
ジェンダー平等のたたかい
日本の展望を開いていくのは、一方ではフェミブリッジ、ジェンダー平等のたたかいです。都知事選のころから非常に危ない兆候が現れています。石丸氏なら、老害政治家を罵ることができる、男性の支持層が女性の倍くらいあり、10代・20代、30代でも石丸氏がトップ、この世代間の傾向にも注目する必要があります。並行して起こったのが、強烈なミソジニー(女性に対する嫌悪や蔑視)。これが東京都知事選を席巻していました。
女性管理職の登用は、若手から見ると、女性が優遇されているように見えてしまい、日本の中堅サラリーマン層が抱かされる女性蔑視と世代間分断に注意することが必要です。
分断を許さず
徹底した対話、地上戦を
斉藤元彦氏や立花孝志氏がやっていることは、維新の真似で、維新が強かったのは、選挙の神様と呼ばれた東京維新の会藤川晋之氏がいたからです。Youtubeは再生回数が増えればそれだけお金が稼げます。これを最大限活用して、世代間分断や反メディア、反知性、反規制政党などのメッセージを徹底して送り続けました。
分断の正義を許してはいけません。東京都知事選挙で、蓮舫氏が掲げた政策が公契約条例でした。この政策は、業務委託はじめ、東京都との契約に参入したい事業者は、従業員の給与を一定以上の水準にするなど条件が課せられます。非正規を正規雇用にするなど、労働条件が改善され、優秀な人が集まりサービスが向上すれば、住民にとってもいい結果が生まれます。
雇用される側もサービスを受ける側もWin‐Winになり、税収増で都民全体にとっても有利になります。すごい政策です。こういう政策はSNSでは広がらず、対話を通じてしか広がりません。
シールアンケートは、対話の糸口です。対話を広げる努力を徹底してやるべきです。ネット戦も必要ですが、徹底した地上戦をやること、それが今私たちに必要です。そしてそこに展望が開かれてくるのです。