自衛隊への名簿提供は違憲であると、18歳の高校生が国と岐阜市を訴えた「とも」裁判、今年3月に提訴し、第一回公判が6月に行われます。訴訟弁護団の仲松正人弁護士をみずほのまち法律事務所にたずね、お話を伺いました。(聞き手:写真 近田美保子)

仲松 正人(なかまつ まさと) さん
弁護士 みずほのまち法律事務所
1956年9月沖縄生まれ
岐阜総がかり行動代表。
自衛隊個人情報取得違憲国家賠償等請求事件「とも」裁判 。労働事件、子どもに関する事件などを扱う。平和運動、人権擁護運動も。
高校生が国などを提訴
「とも」裁判
18歳の高校生が国(自衛隊)と岐阜市を訴えた自衛隊個人情報取得違憲国家賠償等請求事件「とも」裁判は、2026年3月26日提訴しました。6月29日に第一回公判があります。
「とも」はニックネームです。ネットなどの攻撃から守るため氏名・性別・住所などは秘密です。
とも裁判提訴の原告
原告は、2023年6月14日に近くの日野基本射撃訓練場で自衛官候補生が自衛官3人に向けて自動小銃を発砲し、2人が死亡した発砲事件を知り、武器の所有を認められていない日本で、人を銃殺できてしまう自衛隊を怖いと思っていました。
親から、軍事費が増やされ、教育予算も削られていることも聞いていた矢先に自衛隊への勧誘ハガキが届き、勝手に名簿が提供されたことを知り、「日本の未来もすごく不安になる気持ちになり、怒りを覚えました。」と原告になる決意をしてくれました。
当事者の高校生が裁判に訴えたのは2 024年、奈良の「RYU」」裁判につづき全国で2例目です。神戸では住民訴訟が1件起こされています。
国家賠償法1条1項により、慰謝料など110万円の支払いと、自衛隊が保有する原告の個人情報、氏名、住所、生年月日、性別の各情報の抹消の2つを請求しています。
訴えていること
一つは、自衛隊は憲法違反であるということです。
昭和21年第90回帝国議会で吉田茂首相は「自衛権の発動としての戦争もまたは交戦権も放棄」と答弁し、国務大臣も「自衛権は当然に保有」としつつも9条2項によって「実質的に自衛権を行使する手段を放棄」と。学界でも自衛隊は憲法違反が通説です。
仮に自衛隊が個別的自衛権行使の必要最小限の実力だという政府見解に立ったとしても、自衛隊の実態は、集団的自衛権行使容認で「専守防衛」を逸脱、「安保三文書」で敵基地攻撃能力の保有、米軍や「同志国」軍との共同訓練など憲法9条違反です。自衛隊に個人情報を提供することも自衛隊がそれを保有し利用することも憲法違反であることは明らかです。
二つ目は、個人情報保護法違反です。個人情報保護法69条1項には法令に基づく場合を除き、目的外使用・提供を禁止しています。
三つ目は、職業安定法の趣旨に違反しています。文科省からは、学校が職安等の指導援助を受ける、就職先からの家庭訪問禁止、募集広告は年間通して行わないなど職業に対する教育的配慮の通達が出されています。自衛隊の活動を知らない高校生に突然の勧誘は、職案法の趣旨にも違反しています。
深刻なプライバシー権・人格権の侵害
憲法13条は個人の尊厳と幸福追求権を保障しています。プライバシー権は重要な基本的人権で、住所・氏名・年齢・性別はそれだけで個人を特定できる情報で、人格権の侵害となります。
1967年、住民基本台帳法が施行され、個人情報はだれでも閲覧が可能となりましたが、2006年に原則非公開になりました。ただし、国や地方公共団体の機関が「国や地方公共団体が法令で定める事務の遂行のために必要である場合」に個人4情報(住所・住民・生年月日・性別)の閲覧が可能になりました。
閲覧できても書き写さなければなりません。それで、2019年1月に安倍首相(当時)が国会で、防衛大臣からの要請にも関わらず、6割以上の自治体から自衛隊員募集に必要となる協力が得られていないと答弁、2020年12月に自衛官又は自衛官候補生の募集に関し、必要な資料の提出を防衛大臣から求められた場合、自衛隊法97条1項と施行令120条を根拠に市町村長に「必要な報告又は資料の提出を求めることができる」との閣議決定をしました。 2021年2月には、防衛大臣が市区町村の長に対し、自衛隊の資料として住民基本台帳の一部の写しが提供できるという通知が出されることになりました。
「除外申請」があっても違憲・違法
「除外申請」とは、申請をすれば個人の情報を提供しないとする制度です。
岐阜市は除外申請があるから、「意向を無視していません」と言うわけです。「除外申請」によって、憲法19条が保障する思想良心の自由を侵害することになります。自衛隊は誰が除外申請したのかを調査し知ることができ、監視対象になることもあります。
「除外申請」があっても違憲・違法であることには変わりありません。住民などの運動によって、名簿提供は行われなくなった自治体もあります。
本来の地方自治体の姿に
2024年末時点の自衛隊の充足率は八九・一%、定員約24万7千人に対して22万人程度にとどまっています。
特に若年層が8割を切っています。毎年6千人前後の中途退職、防衛大学校卒業生も全員入隊するわけでもないしパワハラ、セクハラの問題もあり、国は非常に焦っています。
武器を購入しても使う人間がいないと戦争なんかできません。
自衛隊の入隊のきっかけで圧倒的な一番は、直接の勧誘です。勧誘ハガキからの入隊は、非常に低く1%とか2%です。ですから、名簿提供をやらせるのは、国に自治体を従わせる動きの一環としても捉える必要があります。
今後の展望
奈良の裁判や岐阜の裁判で勝訴判決が出ることが大事だと思います。
戦前、地方自治はありませんでした。中央集権体制の下、市町村は国の末端機関として国の政策を遂行する組織でした。しかし、日本国憲法は地方の住民の福祉や権利は地方が守ると宣言して制度を作ったわけです。地方分権法で国と地方は対等平等です。
防衛問題は国の専権事項だといって、沖縄をはじめ全国に基地を押し付けていますが、それは違います。戦争になれば、犠牲者は住民です。過去の歴史が物語っています。
安全保障についても地方自治体として意見表明をしていく責任があると思います。
自治体労働者としては、本来の地方自治体にしていくための特別な役割があります。
この裁判は、個人の基本的人権を守ること、「戦争する国」に向かう渦中にある自衛隊のことを十分に理解しない若者を、甘い言葉で自衛隊に誘い込み、戦争動員することを許さない、地方自治体を国の下請け機関化して、戦前のような「徴兵」実施機関にさせない、自衛隊の実態を明らかにしていくことなどをめざします。
「とも裁判を支援する会」を準備中です。ぜひ、支援してください。
