【22.01.10】小林武さん(沖縄大学客員教授) 沖縄を再び戦場にさせてはならない――名護市長選挙への構え

 沖縄の2022年は、4年に1度巡ってくる選挙イヤーです。9月の県知事選を天王山として、那覇、宜野湾、石垣など各市を含むいくつもの自治体選挙に、今年は参院選が加わります。新年冒頭の政治決戦は、辺野古地区をもつ名護市の市長選挙です。
そうした今、政権は「台湾有事」を喧伝して琉球列島にミサイル網を布き、米国に従って軍事行動をする態勢を一気に強めています。それに、総選挙で、悪政の先導部隊を任じる日本維新の会が増殖したことにより、改憲に向かう動きが濁流となっています。沖縄の一連の選挙には、沖縄の、またけっして大袈裟でなく日本の命運がかかっているといえます。どうしても勝ち抜かねばなりません。

復帰50年、沖縄が再び戦場に

 沖縄は、今年復帰50年を迎えます。太平洋戦争末期に、米軍の上陸による地上戦で住民の4人に1人が生命を奪われた「沖縄戦」(1945年4月-9月)のあと27年に及ぶ米軍の直接支配を脱して、沖縄県民は施政権返還を実現しました(1972年5月15日)。しかし、「日本国憲法のもとへの復帰」の願いはふみにじられ、米軍は駐留し続け、あまつさえ自衛隊が進駐してきました。政府の言う、「本土並み」の「負担軽減」とはならず、米軍基地の「整理縮小」は進まず、今に至るも課題は山積しており、むしろ厳しさを増しているといえます。
 とくに今、米中対立情勢の中で、軍事要塞化が急速かつ過激な形で進行しています。与那国から奄美大島にかけての琉球弧に自衛隊を駐留させて、米軍との共同作戦を展開する「南西シフト」の戦略です。それを示す一例として、陸自は、教範『野外令』の2017年改定版で、日米共同作戦にかんして、従来の、「我が国への侵略を排除するため」を削除して、「我が国の平和と安全を維持するため」と、日本有事に限定せず海外での戦争に拡大する文言に改めた、と報じられています(沖縄タイムス2021年12月12日)。これは、2015年制定の安保法制が法的根拠だとされ、念頭にあるのは、沖縄防衛ではなく、台湾有事で米軍が武力行使をする場面での自衛隊による米軍協力であり、沖縄は、真っ先に標的となることが避けられません。
このことは、米国の側からも、2021年11月17日、米議会の諮問機関「米中安全保障調査委員会」の報告書が、台湾有事で米国が軍事介入の動きを見せた場合、沖縄が核攻撃の標的となる可能性がある、と指摘しています(沖縄県議会、渡久地修議員の質問。しんぶん赤旗12月9日)。そして、こうした動きを煽るがごとくに、安倍晋三元首相が、「台湾有事は日本有事、日米同盟有事だ」と、一国の首相であった者とは思えない妄言を繰り返しています(12月1日、3日)。沖縄を絶対に戦場にさせてはなりません。そのために日本政府がなすべきは、米中の武力衝突を平和的手段によって防ぐ政策を全力で遂行することです。

辺野古設計変更不承認の大きな意義

 こうした状況下で、11月25日、辺野古米軍新基地の設計変更をめぐって、玉城デニー知事が変更申請を不承認としたことは、巨大な意義をもっています。これは、埋立て区域の大浦湾側で広大な「マヨネーズ並み」の軟弱地盤が見つかったことから、沖縄防衛局が地盤改良のための設計変更を申請していたのですが、知事は、調査が不十分で、改良後の地盤の強度などの安全性に根拠がなく、また、絶滅危惧種のジュゴンへの影響が適切に予測されていないと判断し、「普天間基地の危険性除去のために新基地をつくる」という理由づけには合理性がない、として申請を承認しない決定をしたものです。県民は、この決定を報告する知事に、「よくやった!」、「県民がついているぞ!」と応じています。
国は、これを受け、防衛省が行政不服審査法にもとづく審査請求を国土交通大臣に対しておこないました(12月7日)。しかし、そもそも行政不服審査法に定められているのは、行政の違法・不当な処分に対して「国民」(私人)が権利・利益の救済を図る制度です。国はこれを歪曲して私人に成りすまし、2015年と18年の2度にわたってこの制度を使い、工事を強行してきました。新基地建設は内閣で閣議決定しているのですから、その内閣の成員同士で審査請求をしそれを裁くというのは、まさに八百長の論理です。国が自ら違法行為をして恥じることがない、これは法治国家の終焉の姿といわねばなりません。今後、法廷闘争の局面に入りますが、知事は徹底抗戦の構えです。県民が支え続けることは間違いありません。

――最後に、新型コロナウイルスで、基地の島沖縄の人々は特別の恐怖につつまれていることにふれておきます。沖縄米軍基地の兵士は、日本側(政府であれ県であれ)の検疫を受けないまま、直接軍用機で基地に入ってきます。日米地位協定によって、日本の検疫法が米軍に適用されないためです。基地内の感染状況を検査することできず、わかるのは、米側が発表した感染者数だけです。こうした状態のまま、米兵は、市中に出入りし、市民と接触しています。この、地位協定の壁の中でブラック・ボックスになっている「米軍基地コロナ」こそ、沖縄の感染者数が他府県と比較して人口比で異常に高く、また一向に収まらないことの元凶であると、私は考えています。
こうした米軍の植民地支配者のごとき傍若無人の振舞いを法的に許している従属的な地位協定を抜本的に改定することは不可欠の急務となっており、さらに安保条約の終了に向かうことこそ問題を根本的に解決するための課題であるといえます。そして、眼前にある一連の重要選挙で勝利を重ねていかなければなりません。
                              (2021年12月22日)

このページをシェア