【22.05.10】佐々木寛さん(新潟国際情報大学教授/市民連合@新潟・代表)―軍隊や武器で私たちの平和は守れるのか・ファシズム許さない!「信頼」にもとづく平和憲法こそ最大の安全保障

政治は市民がつくる!

 
佐々木 寛 さん

新潟国際情報大学教授。専門は、政治学・平和学。日本平和学会理事、市民連合@新潟代表。著書:『市民政治の育て方』、『「3.11」後の平和学』(共著)など多数。 

安全な原発はない

 新潟には世界最大の原子力発電があります。ロシアによるウクライナの軍事侵略で3月、サボリージャ原発が攻撃されました。3・11東日本大震災の福島原発事故やウクライナの状況からあらためて原発はエネルギー問題であるだけでなく、安全保障問題だと再認識しました。
 2011年3月11日の福島原発事故は、だれも責任をとらないという「第二の敗戦」でしたが、その意味を考える必要があります。それは、ヒロシマ・ナガサキの後の「原子力の平和利用」という戦後最大のプロジェクトが破綻したということです。「安全な原発」などはもはやないのではないか。

日本国憲法を実現することこそ最大の安全保障

 「軍隊や武器で私たちの平和は守れるのか」が問われています。
 こうした時に、国内のタカ派、ファシズム政党は、「核保有+改憲(緊急事態条項)」を主張し、「自由」と民主主義を否定し、時代遅れの国家像を描いています。
 亡くなったペシャワール会の中村哲さんは、「憲法9条(他国の戦争に加担しないという掟)に何度も命を助けられました。“信頼”こそ最大の安全保障です」と生前に話してくださいました。
 敵基地攻撃、核保有は、実は現実的な安全保障政策ではありません。日本国憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意した」とあるように、憲法を生かして平和を構築することが私たちの決意でした。
 日本国憲法は、「現実主義ではない」という人がいますが、21世紀以降の新しい人類のリアリズム、現実主義にもとづいています。戦争は平和をもたらさないとの経験に基づいたリアリズムです。特にテクノロジーが発達した現代戦争の現実の中で、さらにその意義が高まっていると言えます。
 国境を横断した民衆の平和を求める連帯の広がりが戦争を止める力であり、人類の希望です。 「戦争になったらどうする」ではなく「戦争をさせないようにする」ことが私たちの努力の方向性であると憲法は謳っているのです。

ファシズムの流れを許さない選挙

 先の総選挙で、ファシズム勢力が躍進することになりました。連合も、共産党と共闘はありえないと言っています。連合指導部の視野の狭さ、反知性主義と無責任は言うまでもなく、与党にすりよる政党や、原発再稼働をいう政党は、すでに野党ではありません。
 今年の参院選はどうしたらいいのか。「国家安全保障」というような勇ましいはなしがでてきますが、これは「民衆の安全、生活の安全」とは必ずしも一致しません。「経済安全保障」も経済を軍事的な文脈で再解釈する議論です。
 菅さんがバイデン大統領と約束してきたのは、たくさん兵器を買うこと、自衛隊を対中紛争に投入するということです。
 防衛費は6兆円を超え、軍事費だけを増やしてアメリカの言いなりです。沖縄に負担をおしつけ、平和を壊すところにエネルギーやお金を使っています。新型コロナウイルスも、収まりません。日本社会はジェンダーギャップ150か国中121位です。多くの若者は絶望しています。本当の危機や脅威は、この国の内側から発しています。
 夏の参院選は戦争反対、戦争放棄、そして、ファシズムの流れを許さない。1930年代に逆戻りをさせない。差別や貧困、反民主主義、改憲にどう立ち向かうのか。破壊された立憲主義・民主主義をどう回復するのか。このオヤジくさい社会をどう変えていくのかが、大きな共通の課題だと思います。

新潟の経験から「政治は市民がつくる」

 日本の立憲主義と民主主義が破壊されたまま、先が見えない中で、どういう希望をつくれるのか。
 霞ヶ関や永田町におねがいするだけではダメです。
 2015年9月の安保法制強行採決をきっかけに「市民連合@新潟」の活動を始めました。新潟では「政治や社会は市民がつくる=自治」をモットーに活動をしています。  
 私たちは選挙以外のところでも、民主主義の下部構造を、民主主義を可能にする条件をつくる必要があります。
 原発に象徴される「中央集権型社会」から「地域分散社会」をつくることで、民主主義を育てファシズムを生み出さない構造をつくることができます。
 「中央集権・地域分断型社会」から、「地域分散・ネットワーク型社会」(自治)を実現するには、毎日使用するエネルギーを転換することが近道です。

コミュニティ・パワーの挑戦ーおらって発電所40か所

 風力と太陽光などの自然エネルギーで分散型社会をつくろうと2014年から「おらって市民エネルギー協議会」をつくり、県内に太陽光発電所を、現在40箇所で稼働させています。
 2019年6月には、新潟で私たちのつくった電気が購入可能になりました。自然エネルギーの地産地消の実現です。従来の「植民地型」エネルギーではなく、さらに「地産地所有型」エネルギーの創出をめざしています。
 21世紀社会はこのままいけばますます中央集権的ですさんだ社会になってしまいます。
 今、全国で250の地域で分散型の社会の実現がすすめられています。地域で自立していく自立型社会の動きがひろがっています。
 生きる上で必要な5つの要素、エネルギー、食・農、教育、安全、ケア(医療・福祉)を、できる限り自治にもとづいて地域で実現することが民主主義の下部構造をつくりだします。

大きな時代の流れ、危機のなかで

 今、私たちは、大きな時代の流れ、危機に直面しています。この危機を有権者にどう伝えていくのか。
 ファシズムが勃興しているのは、人々に未来が見えないからです。
 限られた資源を奪い合う、その中で適者生存を競い合うというのが維新の橋下さんらの世界像です。私たちは、それとは逆に、他者と共に未来を語ろうということをどれだけわかりやすく伝えていけるかということだと思います。
 そのためには、大人たち私たちは、次の世代にわたす人間関係や地域のあり方を具体的に示していく必要があります。
 疫病が蔓延し、戦争まで起こり、自然災害の多発で、芥川龍之介の小説「くもの糸」の世界のように、人よりも先に上に登りたいという社会になっています。これがファシズムを生み出しています。

他者や仲間と一緒に

 希望を持ち続ける努力、他者や仲間と一緒に新しい世界をつくると信じて、実践することが大事だとあらためて思います。
 地道な努力、敵であっても相手を人間とみとめて、体あたりする。次の世代に見せたいですね。
 いままでの対立軸や組織の垣根よりも上位の普遍的な価値を常に意識して提起することが大切です。
 喧嘩も沢山するが、子や孫にも語れる生き方を目指しながら、大きな枠で一緒にやっていこうよ、新しい社会は作れるよ、と呼びかけていくことが大事だと思います。
 最後に、新潟の経験を通じて、どうしたら、市民を結集できるのか。
 (1)最初のキックオフがその後のエンジンの燃料になるので、しっかり準備する。
 (2)“役者”をそろえる力(行政・金融・NGOの関係者・学生・退職者・よそ者・議員・・・・)が重要。
 (3)人々が結集する「理念」の力を大切に。 
 (4)「楽しさ」と「気風」がとても重要です。
 (5)技術としてのファシリテーションの活用、でしょうか。

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