【22.06.10】塚田聡子さん(弁護士)――いまこそ、日本の個性である憲法9条を活かそう

私たちの行動は「大河の一滴」

 
塚田 聡子さん
弁護士。名古屋大学法学部卒。名古屋共同法律事務所所属。
愛知総がかり行動実行委員会共同代表。愛知県弁護士会・犯罪被害者支援委員会副委員長。

労働者の味方たれ

 名古屋共同法律事務所は労働事件が多い事務所です。「労働者の味方たれ」はこの事務所の掟です(笑)。
 思い出深いのは「安藤運輸事件」です。運行管理をやりたくて会社に入った方が、会社都合で倉庫の仕事にまわされ、配転無効を争った事件です。一般的に配転は会社の裁量が大きく、「遠方への転勤を伴い家族の介護ができない」など、よほど労働者側の不利益が大きくなければ勝利できません。ところが、思いがけず地裁で勝たせてもらいました。会社側が控訴し、高裁でも争うことになりました。高裁の裁判官は、「最高裁の判例からすれば、この配転は有効ですよね」と述べ、地裁判決をひっくり返す気満々でした。最高裁判例があればその通りにしなければならない、という裁判所の保守的な部分があらわになったと思います。しかし、会社に不利な証拠を探してくるなど、原告本人の努力が実り、高裁でも地裁判決が維持され、配転無効が確定しました。仕事に対するやりがいを奪うような配転を無効とした点で、画期的な判決だと思います。

犯罪被害者支援

 愛知県弁護士会の犯罪被害者支援委員会の副委員長をしています。司法修習生のときに、「緒あしす」という犯罪被害者自助グループを立ち上げた、青木聰子さんとお話をする機会がありました。ご両親を、覚せい剤使用中の強盗に殺害されたご遺族です。青木さんは、「被害者は蚊帳の外」という時代に、「加害者に自分の思いを伝えたい」と裁判官に訴え、法廷で被告人に直接語りかけました。その後、刑事裁判に被害者が関与できないのはおかしいという問題意識を持ち、様々な活動をしてこられました。両親を殺害されるという過酷な体験をしながら、他の被害者のためにも制度を変えていこうとがんばっている青木さんの姿に感銘をうけ、被害者支援の活動をするようになりました。

瑞穂区白竜町のマンション建設反対運動弾圧事件

 「瑞穂区白竜町のマンション建設反対運動弾圧事件」も担当しました。高層マンション建設に反対する運動のリーダーだった奥田恭正さんが、暴行罪で不当逮捕された事件です。たまたまドキュメンタリーで拝見した東京歯科大学の橋本正次先生に、奥田さんの犯行状況が映っているとされた防犯カメラの画像鑑定を依頼しました。橋本先生は、「画像からは、奥田さんが暴行をしたとは認められない」という鑑定書を作成してくださり、これが決め手となって無罪判決を勝ち取りました。ただ、「なぜ、自分は逮捕・勾留され、刑事裁判の被告人の立場にたたされなければならなかったのか」、奥田さんの胸には納得できない思いが強く残っていました。そこで、奥田さんは、逮捕・勾留や公訴提起等が違法であったとして、国家賠償請求を行うことを決意しました。また、奥田さんは逮捕された際に、DNA型や指紋、顔写真などを採取されました。奥田さんから「無罪なのだから、逮捕される前の自分に戻してほしい」と言われ、我々弁護団はDNA型等の抹消を求めることにしました。先日、全国で初めて、DNA型等の抹消を命じる判決が出ました。これまでの判例は、たとえDNA型等を保管され続けても、再犯を犯すなどしない限りは利用されることもなく、具体的な不利益はない等の理由で、抹消を認めませんでした。今回の判決は、国家にDNA型等の個人情報を保管され続けることにより、国民に不安感が生じ、結果としてその行動を萎縮させるということを、不利益と捉え、抹消を命じました。
自分が悪いことをしなければ、国家に個人情報を取得されてもかまわないと考えるひとは意外に多いと思います。しかし、国家から監視されている状態で自律的に生きているといえるのか、奥田さんの問いかけと、それに応えた今回の判決は大きな意義を持つと思います。

憲法9条は「日本の個性」

 ロシアのウクライナ侵攻で、「軍事力は戦争の抑止力になる」という考えは幻想だということが明らかになりました。
 戦争放棄、戦力不保持を掲げた憲法9条を持っていることは、いってみれば「日本の個性」です。押しつけかどうかは関係ありません。「2度と戦争をしない」と言っている日本だからこそ、戦争を未然に防止するための仲介役になれるのではないでしょうか。そういうスタンスを日本は名指すべきではないのかと思います。戦争は起きてしまえばなかなか止めることができません。そこに至るまでの外交的な努力こそ重視すべきではないでしょうか。
 日本中で多くの犠牲者を出した第二次世界大戦を経て、作られたのが憲法9条です。戦争で亡くなった多くの方達の思いや祈りを形にしたものが憲法9条だと思うのです。それを変えるということは、その人たちの思いを踏みにじる行為です。ひととして許されない行為だと感じています。

マザーテレサの言葉に励まされて

 マザーテレサは、「私たちは大河の一滴。でもその一滴がなければ大河は生まれない」という言葉を残しています。私たちのやっている事は小さくて、目に見える効果はないかもしれません。しかし、1つ々々の行動が積み重ねられなければ、大きな変化は生まれません。総がかり行動もそうですが、一見地味に見える市民の運動には、大きな意味があります。運動は報われない事もありますが、諦めてはいけません。LGBT、ジェンダー、気候変動など、10年前では考えられないような変化が生まれているのは、過去からの気の遠くなるような努力の積み重ねがあったからです。私たちの行動が、確実に「大河の一滴」となっていきます。これからも、自分にできることをコツコツと積み重ねていきたいと思っています。

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