【11.05.14】放射能被害――外部被ばくだけでなく、内部被ばくも・・・沢田昭二さん(名古屋大学名誉教授)

 政府や東京電力は、放射能被ばくについて「人体に影響を及ぼす値ではない」と繰り返してきました。
 革新・愛知の会代表世話人の沢田昭二(名古屋大学名誉教授)さんに軽視されている内部被ばくなどについて、寄稿してもらいました。

地震と津波、大量の放射能で甚大な被害

 東日本地震と津波の被害だけでも大変なのに、東電の福島原発の事故で付近の住民はいつ帰れるか分からないという状況に追い込まれている。
 燃料棒の冷却装置が全部壊れて6基の原子炉のうち4基が水素爆発などを起こして大量の放射性物質を環境に放出し、いまなお安定して燃料棒を冷却する見通しが立っていない。安定してポンプを働かせて冷却できるようになり、放射性物質を除去できないと周辺住民は帰れない。
 また土地や海水の汚染で農業や漁業も大きな打撃を受け続けている。今回はマグニチュード9.0の地震でも震源域からやや離れていたが原子炉が津波が来る前に壊れていた可能性が指摘されている。

中部電力浜岡原発は直ちに冷温停止状態にすべき

 東海地震の震源域の真上にある中部電力浜岡原発ではどんな深刻な事故になるか予想もつかない。直ちに冷温停止状態にしてほしい

原発修理の作業員、周辺住民の晩発的障害の可能性

 放射線で被ばくすると大まかには2種類、急性放射線症と晩発生障害がある。かなり大量に放射線をあびると嘔吐、脱毛、紫斑、下痢などの急性放射線症状を発症する。個人差があるが、大量に被ばくすれば誰でも必ず症状が現れる「確定的」障害である。こうした急性症状は、被ばくして1週間後から3週間後とわりに早く発症する。
 今回の事故では、原子雲から降下した放射性降下物で被ばくして急性症状を発症した広島・長崎原爆の遠距離被爆者ほどの強い放射線被ばくはしていない。
 放射線被ばくによる晩発性障害はずっと後になって引き起こされ、がん、白血病、甲状腺障害、肝臓障害など、さまざまな障害がおこる。しかし、がんの原因にはたばこを吸うなど他の原因もある。ずっと先になって、これがあの福島原発の放射線をあびたためと証明するのは難しい。放射線をあびれば必ずこういう病気になるとも言えないのが晩発性障害である。
 しかし、放射線をあびればあびるほど発症する割合、確率が大きくなり、こうした病気を「確率的」障害と言う。
 今回の事故では、原発を修理している労働者や、原発周辺で避難が遅れた人たちの間で晩発的障害が起こる可能性があるので,国の責任で健康管理をする必要がある。
 放射線が体内を通過する時、放射線が持っている莫大なエネルギーを、身体の中の分子の中で、原子を結びつける役割をしている電子に渡す。電子はエネルギーをもらうと分子から飛び出し、分子が壊れる。これが放射線の電離作用で、1本の放射線だけでも何万カ所も電離作用して分子を壊すが、大部分の分子は修復される。ところが僅かであるが、修復できなかったり、誤った修復をする。これが放射線のさまざまな傷害をつくり出す根源で、誤った修復が多いと細胞は死滅する。
 身体の外から放射線を浴びることを外部被ばくという。

内部被ばくを軽視、無視

 一方、呼吸とか、飲食で身体の中にとりこんだ放射性物質が放出した放射線による被ばくを内部被ばくという。
 1ミクロンの放射性微粒子でも、その中には何百万個という放射性の原子核が含まれているので、それが身体のどこかに付着すると、周辺の細胞が強い被ばくを受ける。これが、内部被ばくが深刻になる理由である。
 また、血管のなかで微粒子が溶けると、分子や原子レベルで体中を廻り、元素の種類によって特定臓器に集中する。ヨウ素131は甲状腺に集まり、セシウム137は筋肉に集まる。集まった臓器に集中して放射線を浴びせて傷害を引き起こす。
 世界中の放射線の影響の研究者たちの多くは、核兵器をつくっている政府に支配されて、内部被ばくを軽視ないし無視し、日本の研究者もこれに従ってきた。
 もともと日本の原子力発電は、アイゼンハワー米大統領の1953年12月の国連演説 “Atoms for Peace” が始まりである。 演説の狙いは、核兵器をつくる濃縮ウラン産業を維持するため、濃縮ウランを使わせる国をつくるためだった。
 安全性、コスト、使用済み放射性廃棄物の処理など未完成な技術を地震国で人口密集国の日本にも日米原子力協定を結ばせて押し付けてきた。その付けが今回の原発事故につながった

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