「医療崩壊」をくい止めるため医療費総枠拡大を!の世論をひろげて
「先生、いつも助けてくれてありがとう」――小学校三年生の女の子のかわいい絵と手紙が飾られている階段を上がり、診察室にはいるとにこやかな笑顔の荻野高敏先生。
一日の診療の終わった後にお話しを伺いました。
荻野 高敏さん
1950年中村区生まれ。1975年名古屋市立大学医学部卒業。 1990年ニコニコこどもクリニック開業。2007年5月愛知県保険医協会理事長。
看護師、医者不足
いま、「医療崩壊」が大きな社会問題となってきています。典型的な現れが、看護師と医師不足です。医学部の定員を増やさないとの政府方針の問題もあると思いますが、根本問題は、政府がすすめてきた「医療費抑制策」にあると思います。連続して診療報酬(医療保険から医療機関に支払われる治療費)が減らされ、病院経営はたいへん苦しくなってきています。
また、患者さんの自己負担、特にお年寄りの方の自己負担が増え病院にかかれなくなってきています。
愛知県保険医協会、保団連を中心として「公的医療費の総枠拡大!医療の危機打開と患者負担の軽減を」求めて運動をすすめています。医師会・歯科医師会は、まだこの運動を取り組んでいないのですが、医師会の先生がたとの協力も必要になりますので、この署名が医療界の声を束ねる役割をはたすということではとても重要です。
後期高齢者医療は「姥棄て医療」
来年4月からは、後期高齢者医療がはじまります。保険の制度も医療内容も年齢によって差別するという世界のどの国を探してもないと思います。「姥棄て医療」といわれるほど本当にひどい制度です。是非、多くの方々と力をあわせて、運動を進めたいと思います。
この制度が導入されると、いままで払わなくてもよかった人も全員が保険料を払うことになります。それを裏返せば、今までお仕事をなさってきた方は当然、死ぬまで企業負担が一定程度あるのですが、すっぱり無くし、企業側の負担をそのまま国民が肩代わりするというものです。
もう一つは、国民健康保険料の長期滞納世帯に保険証に代わって交付される「被保険者資格証明書」は、75歳以上には発行されていませんでしたが、それを発行できるようにするものです。さらに、病院にかかれなくなってしまいます。
安心、安全な医療の実現のためには
産科も深刻な事態です。西三河のほうでは、正常分娩を取り扱う病院が止めてしまったために、ひとつの病院に集中してしまい、これ以上、正常分娩はあつかえないので、「里帰り分娩」は受け付けないという所も生まれています。これは、遠い所の話しではなく、身近な問題です。
医療というのは、物をつくるのと同じではありません。トヨタのような効率の追及というのはできません。安心で、安全な医療を望むためには当然、お金がかかります。
私たちも「安全で安心の医療にはお金がかかる」ということを国民のみなさんに判っていただく努力が足りなかったと思いますが、為政者は国民の間に分断政策をとるというのが常套手段ですから、患者さんと医者を対立させることによって、自分たちへの矛先を弱めることためにマスコミなどを利用してきました。
しかし、最近は、公的医療費総枠を拡大することなしには、今日の医療危機は解決できない、といった論調が見られるようになってきました。
日本の医者の一人あたりの人口比率は、先進国のなかでも一番低い、たしか全世界の中でも67番ですね。しかも、実際に診療に携わっていない医者も数に入れているのです。日本は世界で2番目の国内総生産(GDP)です。医療費拡大は充分できると思います。
戦争は最大の健康、命の破壊
保険医協会の理事長を、今年5月に引き受けました。自分のことを自慢するわけではありませんが、小児科の医師には、まじめな方が多いですね。(笑)
戦争は最大の健康、命の破壊です。いうまでもなく、日本は世界に誇れる日本国憲法をもっています。にもかかわらず、安保条約に縛られて、憲法が脅かされています。憲法を守る運動は当然やっていかないといけませんね。保険医協会でも反核医師の会などと協力して大いに取り組んでいます。
1990年に開業、急性期医療が中心でやってきて18年目になります。
「どうしてニコニコこどもクリニックにしたのですか、よく笑っておられるからですか」と聞かれるのですが、笑っているように見えるだけです。普段はいいのですが、子どもさんの容体が悪い時に、付き添ってこられたお父さんに怒られたことも2・3度あります。
真剣なんですが、笑っているように見えてしまうんです。それと、従来とは違う名前を付けた銀行など話題になったこともあって、「ニコニコこどもクリニック」とつけました。最初は、恥ずかしかったのですが、もう慣れましたね。
疲れたときのストレス解消は、寝ることです。ときどきプールにいっています。
子どもの夜泣きは、お母さんたちにはつらいですね。睡眠は、小児科領域では従来あまり顧みられなかったところです。やはり、生活環境が大きいですね。生活にゆとりがもてて、少なくともお母さんは長期に休めるとかお父さんも休めるとかいう制度を作っていくことが大事ですね。
あわせて、助け合えるような集まりなども必要ですね。寝るのが趣味ということもあわせて(笑)、子どもの睡眠についても研究していきたいと思っています。