東日本大震災から、7ヶ月たちましたが、地震列島日本、超巨大地震の可能性も指摘されています。西日本では、マグニチュード9の地震の可能性はあるのか?名古屋大学教授の古本宗充さんをたずね、お話を伺いました。
東北地方太平洋沖地震―数十メートルの断層のずれは何を意味するのか
2004年スマトラ地震は、われわれの想定外の地震でした。それまでは、地震学者の金森博雄先生(カリフォルニア工科大学名誉教授)の理論が非常に合理的で、スマトラで巨大な地震は起こらないと考えられていたのです。
東海、東南海、南海の3つの地震が連動して起こる可能性が指摘されています。(マグニチュード8・5)日本で起きる最大の地震で、日本付近ではマグニチュード9の地震は起きないと考えられてきました。
私は、スマトラ地震が起きたことで、日本付近でもマグニチュード9の超巨大地震が起きる可能性があると学会でも発言していましたが、東北沖の地震が起こった。その瞬間はとてつもなく大きい地震が琉球方面で起こったと思いました。インターネットですぐ東北だとわかりましたが、東北でも起こるかもしれないとは言っていたつもりでしたが、全く混乱してしまいましたね。断層のずれは、三連動地震では、せいぜい数メートルか十メートルです。ところが、東北地方太平洋沖地震では、断層が数十メートルずれました。
この地域は、一年間に8センチ位プレートが入り込んでいるので、1000年間入り込んでいた計算になります。これほど大きなずれを蓄えているとは誰も思っていませんでした。
プレート境界地震が発生したときは、それまで蓄積されていたエネルギーが完全に放出されると考えられてきました。
しかし、今回の東北地方太平洋沖地震は、「プレート境界に“隠れたエネルギーの蓄積”がある」ことが明らかになったのです。
ここを新たな地震の研究の出発点にしないといけないと思います。
西日本でマグニチュード9の地震発生の可能性
「一番大事な地震を全く知らなかった」と数ヶ月、多くの地震学者が本当に混乱状態だったと思います。
今回の東北で起こったことを直視し、その視点で見ると西日本付近でも東海、東南海、南海地震とともに、南海トラフト沿いの領域でマグニチュード9の地震が起きる可能性を示す根拠はいくつかあるのです。
御前崎、室戸岬で隆起地形も2000年前の超巨大地震の痕跡が
西日本の海岸付近に残された「海岸段丘」とよばれる地形があります。地震の際の隆起などによって形成される階段状の地形です。階段一段分の高さが、一回の地震によって隆起したと考えられます。静岡県の御前崎、高知県の室戸岬をみると過去7000年くらいに4回、大きな隆起地形が形成されており、そのほとんどでの形成時期が一致しているように見えます。前回大きな隆起をしたのはおそよ千数百年から2000年ということを考えると超巨大な地震が近い将来におきるのではないかと見えるのですね。
ただ、反論はいくらでもあります。論争は大いにやればいいと思いますが、防災という意味では、最悪の可能性を想定し、対応できるかどうかは別として考えていくことが大事だと思います。危険を軽く想定して、失敗したのが今の原発です。ここまで起こりうるかもしれないということを知っておく必要があると思います。
外れてくれれば幸い、いろいろデーター調べたら、そんなことはないということになればいいわけですね。
日ごろからの対策を
家具などの固定や補強をしておく、寝るところに物を置かない。津波は、すぐに逃げる。目指した建物まで、暗闇の中で逃げていけるのか、昼間ならこのルート、夜ならこのルートでということを考えておく。食料や水の確保、レトルト食品の常備、日常的に連絡方法などを話し合っておく。
毎日は難しいですから、月に一度でも二度でも考える事が必要ではないでしょうか。
行政、国の対応は
学校の耐震、避難所はどうするのか。海岸付近の津波対策の見直し。堤防の補強、停電になったら、非常灯がつく道路など行政として本気になってやってもらわないといけません。
三連動地震が発生すると西日本が機能麻痺、支援も思うようにできない。都市の機能分散も必要だと思います。
地震の可能性の高いところだけの議論になりがちですが、各都市の内陸の活断層、直下型地震など常に考えていかないといけません
日本の文化を変える
地震研究関連の予算は、年間百億円位でしょう。ジェット戦闘機一機何百億円ということを考えれば、多くないのでは。防災は最大の国防だと思います。以前は、「地震庁」をとの運動もあったのですが、進んでいません。海底探査船「ちきゅう」は、巨大地震・津波発生の解明に必要な探査船ですが、維持費がなく、半年ぐらい石油会社に雇われて石油探索などに行っています。挙句の果てに関連組織が事業仕分けの対象にされましたが、そこはつぶされては困ると思います。
国民意識が変わり、経済優先の文化が変わらなければいけないのではないでしょうか。日本の文化が、あの東日本大震災がひとつのターニングポイントであったと言えるようになるべきだと思います。
(趣味はとお尋ねすると)星を見ることです。はやぶさ落下の探査係でオーストラリアまでいきました。はやぶさが大気圏に突っ込む振動を地震計で記録できるのです。肉眼で確認できなくてもどこを通ってどこに落ちたのかわかるのです。忙しい中、星を見ているとロマンを感じますね(笑)