日本国憲法下の社会秩序の破壊に繋がる―一人ひとりが意見を発信し世論形成を!
花井 増實さん
愛知県弁護士会会長 日本弁護士会副会長。1951年三重県生まれ、1979年に弁護士登録、2006年度名古屋弁護士会副会長 、一橋大学卒業。
社会秩序の破壊につながる
「弁護士は、基本的人権を擁護して社会正義を実現することを使命としており、その使命にもとづいて、社会秩序の維持、あるいは法制度の改善に努めなければならない。」と弁護士法は定めています。法律専門職団体としての弁護士会のスタンスはここにあります。ここでいう「社会秩序の維持」とは日本国憲法の下で成立している社会秩序です。 今回の集団的自衛権行使を閣議決定で容認することは、社会秩序が破壊されるということになると考えています。
国の在り方を大きく変えるものに
憲法9条は戦争を放棄し、かつ軍隊をもたないと文言は書いていますが、第二次世界大戦後、自衛隊を創設し、これは、日本が他国から武力攻撃を受けたときには、自衛の措置が必要であるから、自衛隊を保有するという解釈をとってきたわけです。
しかし、7月1日の閣議決定で、日本の国の在り方を大きく変えるものになりました。
集団的自衛権行使容認の閣議決定は、「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」と述べています。
これは、日本が武力攻撃をされていないにもかかわらず、他国のために戦争をすることを意味し、戦争をしない平和国家としての日本の国の在り方を根本から変えるものです。
これは非常に重大な問題です。
弁護士会として、強い危機意識をもっています。
日弁連、全国の弁護士会も声明を発表し、7月17日には閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対して、日弁連と全国の52弁護士会の会長全員が参加して、東京の日比谷から銀座までデモ行進して街頭宣伝を行いました。
立憲主義の破壊にも
今回の問題は、国会で審議される、法律の制定や改正について意見表明するというようなこととレベルが違うと思います。
憲法の規定が、立法、司法、行政という、国家権力をきちんとコントロールするという立憲主義のシステムなのに、行政権を行使する内閣が、憲法の定めたルールを解釈で改変していくことは、立憲主義自体が破壊されるということです。
憲法9条のこれまでの政府解釈は、他国に対する武力攻撃を実力で阻止するということは、我が国の自衛権の範囲を超えているという解釈です。集団的自衛権である、他国に対する武力攻撃の阻止をわが国が行うなら、憲法改正という手段をとるべきということを言及した政府答弁もあるのです。
それを今回の閣議決定で、集団的自衛権の行使を容認しました。
問題は、憲法という規範(ルール)が上位にあって、その憲法のもとに、内閣、国会、裁判所があるのに、内閣が、憲法改正手続きを経ることなく、勝手に上位にある憲法の規範を逸脱した解釈して行政権を行使することは、極めて重大な問題です。
また、国民の生命、自由、幸福追求に対する権利を守るという言葉が、今回の閣議決定に入れられていますが、国民の生命、自由、幸福追求権を守るためであれば、他国への武力攻撃に対して、日本が自衛措置として実力行為ができるとしています。他国に対する武力攻撃と、我が国の自衛措置という、言葉として、全く異質のことをひとつの文章に組み入れて、そこを曖昧でわかりに難くしている。また、現実的な説明としても、納得で
歯止めなく
例えば、ホルムズ海峡の機雷掃海を例にして、石油が輸入できないことをもって、わが国の存立を全うするために必要な措置をとるというところに、政府はつなげていくわけです。わが国の存立を全うできるか否かの政府の判断が、どこまでそれが膨らんでいくのか。歯止めがなく、限定がされないことになります。 安倍首相は限定したと言っておられますが、まったく限定になっていません。
国民的議論なしに
国民的議論をしたかというと、まったく国民は外野に置かれているわけです。国会で議論をしていくことは最低限必要だろうと思いますが、国会での議論は、7月1日の閣議決定後に、国会閉会中の、衆議院と参議院のそれぞれの予算委員会で、1日ずつ集中審議しただけです。
憲法の規範ということからいって、大きく踏み外しています。仮に集団的自衛権行使となれば、憲法改正手続きを踏むべきだというのが我々の見解です。
日本国憲法が我々に与えてきてくれたことを今、改めて考えることが重要です。
それは、日本国憲法の施行から67年間、日本は戦争に巻き込まれることがなかったということです。
安倍首相は、憲法の立憲主義の仕組みについて、全くかみ合った議論をされておりません。安倍首相は、外交では他国に対して、さかんに「法の支配」と発言しています。そうであるならば、国内でも「法の支配」をきちんと守っていただきたい。
戦争できる軍隊をつくることは、経済の発展には反することであり、軍備にお金がかかればその分が経済負担になりますし、現実にも、経済は国際紛争に対して敏感に反応します。
日本が憲法9条を堅持してきたことが、日本の経済を支えてきたと思います。
ひとりひとりの意見表明が大事
弁護士会も法律家の専門職団体として、社会的な役割を果たしていかなければなりません。
基本的には、国民一人ひとりが集団的自衛権行使に反対する意見を表明し、発信することではないでしようか。
集会、デモなどに参加したり、投稿などで、世論を形成することです。
これから安倍内閣は、集団的自衛権行使に関連する法整備を進めるとしていますが、日本国憲法が日本を支えてきた重みを改めて、みんなが考えて、ひとり一人が考え、行動することではないでしょうか。