【19.06.10】河西秀哉さん(名古屋大学准教授)――「象徴天皇とは」―私たちに問われている

安倍改憲と政治利用

 
河西 秀哉さん

名古屋大学大学院人文学研究科准教授。1977年生まれ。名古屋大大学院文学研究科博士後期課程修了。同大で博士号取得(歴史学)。神戸女学院大文学部准教授などを経て現職。専門は日本近現代史。『近代天皇制から象徴天皇制へ』(吉田書店)など多数。

天皇制研究のきっかけ

 私は、日本近代現代史を専攻し、特に天皇制を研究テーマにしています。
小学校5年生の時、中日ドラゴンズが優勝したのに天皇代替わりで、ビールがけがなくなるなど自粛ブームがとても不思議でした。 名古屋大学で象徴天皇制を学び研究する中で、日本の問題の根本に「天皇」があると思ったわけです。

代替わり行事とマスコミ

 今回、NHKや報道ステーションなどの番組に出演して、天皇制報道への同調圧力があったように感じました。報道の仕方も本質を伝えることにはなりませんでした。
 ただし個々の記者と話してみると、「問題の本質を言ってほしい」との思いを感じました。そこで話した女性宮家についての私の発言はネットでずいぶん批判されていたようです。
 今回の代替わりは、4月30日退位、5月1日に即位と日程が決まっていて、どこかで、ギアーがかかりみんなが何となく乗っかっていったということが特徴だと思います。
 安倍首相らは、これはいけると考えたのでしょう。その前から少しづつ、そして4月1日に元号発表でテレビをジャックしていきました。
 その儀式が本当にいいのか、象徴天皇制に何の意味があるのかの検証もされないままに報道がされました。

象徴天皇制の果たした役割

 象徴天皇制が戦後、日本の国家統合に果たした役割は大きいと思います。
 その役割が平成になって変わり、これまでの統合としての象徴から、象徴天皇が統合に能動的になっていきます。それは危機感からだと思います。 天皇制の「生存戦略」つまり、自分たちが生き残るために一生懸命に仕事をしてきたと思います。ところが、ある時点から日本社会への危機感にシフトしていったのではないか。
 バブル崩壊、リーマンショックで日本は格差社会に進んでいます。天皇は格差社会の落ちこぼれそうな人たちに目をむけ、緩やかに統合してきた。宮内庁などは高齢を理由に天皇の仕事を減らそうとしたわけですが、天皇は自分の仕事は若い人に譲り、この機能は残したかったわけです。
 私たちは彼らのやってきていることがどうなのか。象徴天皇は何なのか、議論をすべきだったのではないしょうか。

安倍改憲と政治利用の危険性

 一つは、平成の天皇のようなあり方が継続されていくと、政治の不作為を天皇が解消してしまうことになるのです。被災地問題も基地問題も政治の問題ですが、「天皇が目を向けてくれた」と政治へのエネルギーを減退させる。安倍内閣を補完しているのです。
 もう一つは、安倍首相は新元号問題でテレビにでまくり、統一地方選では「令和」が自分の政策課題と一致すると恥ずかしげもなく言うわけです。政治家を目立たせてしまっています。
 内奏の様子も公開されました。以前ならあり得ないことです。内容を喋って大臣の首が飛んでしまったこともあるのです。
 自民党改憲草案は天皇を「元首」と書き込んでいます。より権限を持たせようと内奏の権限を憲法上に盛り込もうとしています。解釈上疑義がある行為もお祭りムードのなかでなし崩し的に報道されています。天皇の政治的発言は問題になりますが「事前報告くらいならばいい」と天皇の権威が拡大していく。多くの国民がそこに気付かない。
 綿密なシナリオは誰も書いてないのだと思います。お祭りムードに飲み込まれて、ハードルが下がっているのではないでしょうか。
 「今やっていることを条文に書いているだけ」と、自民党改憲草案の形に近づけているのは間違いがないと思います。
 日本社会は右傾化してきています。だから天皇が左や中道に見えるのです。安倍首相は天皇には何の関心もない。国民の天皇への意識を利用しているだけに過ぎないと思います。
 平成の初期、象徴天皇とは何か、左右両方から議論がたたかわされていました。
社会が全体として右傾化してきて、天皇が右傾化のカウンターとして扱われてきました。政治がだらしないと表裏一体の関係で、「天皇はいい人」として天皇をもちあげていくことになります。

わたしたちは

 憲法の第一章と他の条項とは矛盾があります。矛盾を解消してこなかったのは、政治の問題だけでなく私たちにも責任があります。
 この後、即位の礼、大嘗祭が続きますが、天皇を政治利用させないために、監視して天皇、皇族の行動、政治の行動に関心をもち、チェックをしていくことが大事です。私たち研究者も問題を提供していかないといけないと思います。
 メディアは非常に世論を気にしています。本質を報道せよと声を届けることが大事です。お祭りムードに流されず象徴天皇とは何かを、いま深く考える時期ではないでしょうか。

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