白井康彦さん
1958年、名古屋市生まれ。フリーライター・社会活動家。NPO「貧困家計研究所」設立準備中、元中日新聞生活部編集委員
白井康彦㏋参照↓↓↓
生活保護費大幅削減のための物価偽装を暴く
生活保護裁判「いのちのとりで」裁判とは
厚生労働省は2013年から2015年にかけて、「生活扶助費」を段階的に平均6・5%切り下げました。都会の高齢者で月額2千〜3千円ぐらいの削減ですから非常に痛い。削減の総額は国予算ベースで670億円、このうち580億円分が物価下落に連動させた「デフレ調整」だと言います。生活保護基準の改定で物価を考慮したのは、これまで一度もなく、しかも大幅な削減です。
これを違憲として全国で訴訟が起こりました。愛知は2014年7月31日に生活保護利用者16名が提訴。追加提訴などもあり、現在は原告20名です。
生活保護バッシング
2012年12月の総選挙で、自民党は政権に復帰。翌年1月に生活保護基準引き下げを強行しました。自民党は野党時代に片山さつき氏らがメディアに登場してひどい生活保護バッシングを仕掛けて、「生活保護受給者はけしからん」という空気を作りました。差別感情を煽ったのです。
物価下落を偽装し、生活保護引き下げ
引き下げの根拠になる「生活扶助相当CPI」は2013年の基準改定にあわせて厚労省が勝手につくった物価指数です。消費者物価指数(CPI)統計のデーターをもとに、保護世帯が日常的に消費する品目を対象に計算しました。
それが2008年~2011年で4・78%の下落率だというので、びっくりです。分析してみると、政府が異常な計算を行っていました。CPIは世界各国ともラスパイレス方式で計算しています。厚労省は2010年~2011年はラスパイレス方式で計算したものの、2008年~2010年は普段はまったく使われていないパーシェ方式を使ったのです。比較の後の時点が2010年であるときにパーシェ方式を使うと、物価指数の下落率が目立って膨らみます。厚労省は下落率が大きくなる方式をわざわざ選んだのです。これが物価偽装です。
1000人を超える―原告裁判で明らかに
裁判では、厚労省社会保障審議会生活保護基準部会の部会長代理だった岩田正美日本女子大学名誉教授が証人として「部会は引き下げを容認していない。財政削減のために専門家の意見が利用された」などと証言。私も物価指数の算出方法について「意図的にゆがめられ、過剰に生活保護費が削減された」と陳述しました。
生活保護バッシングに立ち向かって
大問題なのは、本来なら利用できる人の多くが生活保護を利用していないことです。高齢年金世帯、母子世帯、ワーキングプアには、生活保護世帯並みかそれ以下の生活をしている人たちが多い。その状況で自民党は生活保護バッシングを仕掛け、貧しい人同士を争わせたのです。
年金をもらっているから生活保護は利用できないと誤解している人が多い。足らない年金で知恵を絞って無理やり節約する人が目立ちます。貯金を毎月取り崩して生活し、貯金がなくなったら、その貯蓄取り崩しの部分が生活保護に変わるだけなのですが……。ここのところの理解が進みません。憲法25条のラインくらいの生活をしましょう。国が認めているのですから。生活保護利用は当然の権利です。
国際的にみて生活保護の利用率が日本は非常に低い。水際作戦をして受けられないようにする傾向もあります。この裁判はこうした状況や生活保護バッシングに立ち向かう闘いでもあります。
貧困家計研究所準備中
私は貧困世帯の分析のために、「貧困家計研究所」を作るつもりです。 現在の生活保護基準の決め方は一般の低所得者と比較しています。そうではなく、健康で文化的な最低限度の生活に必要な支出額を議論して積み上げる。運動としては、多くの生活保護利用者が家計簿をつけて説得できる事実をそろえていくことが重要です。
生活保護世帯の調査をすると、交際費が少ないことが明白です。日常的な人とのつながりが少なくなって孤立する状況が広がっています。香典や家電製品の買い替えのための貯金の積み立てなども必要。そういった実態を反映させて生活保護基準を決めるべきです。
今回の引き下げは、生活保護世帯の暮らしぶりを無視した計算であり、全く論外です。
国会でも政府を追及していく流れを
生活保護基準は、最低賃金や就学援助などに関連し、国民生活の土台になるものです。この裁判は広く国民に影響します。安倍政権は社会保障全般に削減路線。中でも物価偽装は、最悪な統計不正による社会保障費の大幅カットです。
安倍政権は偽装オンパレードではないですか。勝訴したら、政権への打撃は相当大きいと思います。今後は、この裁判の成果を生かして、国会でも野党が政府を追及する流れにしていただきたいです。