【21.11.10】飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)

改憲許さない!あらたな運動にふみだそう!

 
飯島 滋明さん

1969年東京生まれ。2007年3月早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。現在、名古屋学院大学教授(憲法学・平和学)。戦争をさせない1000人委員会事務局次長。安保法制違憲訴訟常任幹事。著書等に『日本軍事入門Q&A』(吉川弘文館、2014年)、『自衛隊の変貌と平和憲法』(現代人文社、2019年)など。

2021年総選挙結果

 選挙では立憲民主党、共産党は議席を減らしました。安倍自公政権、菅自公政権の本質は、コロナ感染の中で明確になったと思います。つまり「市民のいのちと暮らしを守らない政治」「私物化する政治」「戦争できる国づくり」を進める政治です。こうした自民党・公明党政治の本質に多くの市民も気づき、選挙では自民党は大幅に票を減らすというのが大まかな予想だったと思います。ところが予想に反して自民党は議席を減らしたものの、選挙で勝利しました。日本維新の会も3倍以上、議席を増やしました。

野党共闘の成果

 衆議院選挙の結果を受けて、「野党共闘」は誤りであった旨の見解が広まっています。衆議院選挙の結果を見れば、なぜ負けたのか、その分析は丁寧に行う必要があります。しかし野党共闘そのものが誤りだったという主張に安易に与するのも問題であり、自民党や公明党などの「思うつぼ」となる可能性があります。自民党幹事長の甘利明氏や東京8区の石原伸晃氏を小選挙区で落選に追い込んだのは野党共闘の成果です。今回の衆院選では、5野党が候補者を一本化した213小選挙区のうち、31の選挙区の得票差は一万票以内でした。1000票差以内で敗れた選挙区も4つありました。一方、5野党が候補者を一本化しなかった72の小選挙区ではわずか6議席しか獲得できませんでした(『東京新聞』2021年11月1日付〔電子版〕など)。こうした分析を踏まえれば、野党共闘がなく、野党がそれぞれ候補者を立てれば個別に撃破される可能性が高いと言えます。今回の衆議院選挙は野党共闘に課題を突き付けたとはいえ、野党共闘自体を解消するのは適切ではありません。選挙で負けた要因を丁寧に分析し、次の選挙に活かすことが必要です。

改憲発議 二つの問題点

 改憲発議にむけた対応ですが、今回の選挙の結果、衆議院では「改憲派」が3分の2を超えました。21年11月1日に岸田文雄首相は「党是である憲法改正に向け、精力的に取り組んでいく。与野党の枠を超え、憲法改正の発議に必要な国会での3分の2以上の賛成を得られるよう議論を深める」と発言しました。11月2日には松井一郎日本維新の会代表も「来年の参院選挙までに改正案を固め、参院選と同時に国民投票を実施すべきだ」と発言しました。憲法改正発議を視野に入れ、対応する必要があります。具体的には、改憲項目の内容だけでなく、国民投票のしくみにも問題があるとの認識を広める運動も同時に必要となります。

改憲4項目の問題点

 まず、改憲4項目を中心とする「内容」の問題点の発信ですが、「自衛隊の憲法明記」や「緊急事態条項」についてはいままでの市民活動の成果、その危険性について一定の認識が広まっていると思います。もちろんこの2つの項目についても、今後も危険性を発信することが必要です。ただ、「教育の無償化・充実化」についてはその危険性が「自衛隊の憲法明記」や「緊急事態条項」ほど市民に浸透していません。「教育の無償化・充実化」のために憲法改正が必要だと言われると、納得してしまう市民も少なくないと思います。日本維新の会と自民党は「教育の無償化・充実化」については意見が一致する可能性もあります。そこで自民党改憲4項目に関しては、「教育の充実化」や「合区解消」などの問題点も熱心に発信する必要があります。総務省の試算でも憲法改正国民投票には850億円かかりますが、850億円かけるのであれば改憲ではなく、その費用で教育の無償化・充実化は可能であること、日本育英会の廃止など奨学金の状況、教育環境を悪化させてきたのは自民党ということも発信する必要があります。

国民投票のしくみの問題点

 次に、国民投票のしくみにも問題があるとの運動も同時に必要です。今の改憲手続法(憲法改正国民投票法)では公正・公平な国民投票はできない、法改正が必要との認識を広める必要があります。CM規制やネット規制をしないで国民投票がなされれば、「金で買われた憲法改正」になる危険性があります。外国資本への法的規制をしないで憲法改正国民投票がなされれば、「外国資本に買われた憲法改正」になりかねません。民主主義国家ではあってはならない事態ですが、選挙の際には悪質なデマが拡散されることが最近の日本の選挙でも常態化しています。そこでインターネットのデマ規制がなされなければ、「デマで欺かれた憲法改正」になりかねません。投票できない人がいる状況で憲法改正国民投票がなされれば、最高裁判所の判例からも憲法違反の可能性がありますが、洋上投票や不在者投票では投票できない市民が放置されている可能性があります。いまの制度を前提とすると、外国にいる日本人は2%程度しか投票できません。このように、今の改憲手続法は不十分です。「金で買われた憲法改正」「外国資本に買われた憲法改正」「デマから生まれた憲法改正」にならないための法改正がなされない限り、憲法改正国民投票を行うことは「国民主権」(憲法前文、1条)などから許されないという認識を広める活動も求められます。

情報発信の工夫を

 そして、情報発信についても工夫が必要です。
 1945年のビキニ事件で、第五福竜丸を含む、多くの日本漁船が「ヒバク」しました。「放射能マグロ」や久保山愛吉さんの死で反米国民感情が高揚しました。それに対してCIA、そして読売新聞や日本テレビは原子力に対する好意的な情報戦を展開しました。その結果、短期間で原子力に対する国民感情は劇的に変化しました。1950年代後半、岸内閣はCIAの支援で選挙対策を実施し、自民党への支持を広げる活動、革新勢力に悪いイメージを植え付ける宣伝をしました。情報発信の影響力は今も変わらず、2016年のアメリカ大統領選挙でのトランプ氏の当選、イギリスのEU離脱の国民投票では、ケンブリッジ・アナリティカ社による情報操作の影響が指摘されています。自民党などはこうした情報発信に長けていますが、革新側は十分な情報発信に成功していません。そこで今後は効果的な情報発信、とりわけSNSによる情報発信の工夫が求められます。

投票に行く呼びかけを

 SNSなどによる情報発信の内容として、「選挙に行くこと」を呼びかけることも大切です。政治が良くなるか、悪くなるかは私たちが政治にどうかかわるかによって決まります。私たちは悪い政治家を選挙で落選させることができます。そうしたことができるのが、私たち「主権者」なのです。主権者として選挙に行くことを積極的に呼びかける情報発信も大切です。

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