【23.03.10】藤川誠二さん(弁護士・老朽化原発廃炉訴訟弁護団事務局長) 命と安全が最優先 ―いま、声をあげるとき

 
藤川 誠二 さん

弁護士。小牧市出身。一般企業にて勤務。名城大学大学院法務研究科修了。2019年、藤川・市川法律事務所開設。
高浜原発1.2号機・美浜原発3号機老朽原発40年廃炉訴訟・弁護団事務局長。その他、複数の原発差し止め裁判に関わる。

老朽原発40年廃炉訴訟

福島原発事故の教訓から、現行規制では原発の運転期間は原則40年、例外的に20年延長ができるとなっています。福井県の高浜原発1・2号機と美浜原発3号機は、すでに40年を超える老朽原発です。私たち「老朽原発40年廃炉訴訟」では、名古屋地方裁判所で国に対して、20年延長の運転期間延長認可等の取り消しを求める行政裁判を2016年に起こしました。愛知県には原発はありませんが、偏西風の影響を考慮すれば福井県にある原発で事故が発生した場合、影響を受ける可能性があります。老朽原発は、通常の原発にも増してリスクがあります。「原発はすみやかに廃炉へ」の思いを強くする方々と共に裁判を起こし、現在、14都府県100名以上の原告と裁判を支える市民の会の方々と一緒に運動を進めています。

60年を超えても稼働

 岸田政権の原発政策の大転換には私も驚きました。まさかここまでするとは。
 現在、審査中であることを理由に運転を停止している原発が多くあります。その場合、現在の制度では、最長60年とはいっても停止中の期間分、実際の稼働期間は短くなります。しかし、今回の改正では運転を停止していた期間分は60年を超えて、さらに上乗せして稼働できることになります。実際、審査期間は長くなる傾向にありますので、今後、60年を超えてさらに何年も稼働を続ける原発が複数発生することになるでしょう。
 新たな法案では、これまで40年目でしていた運転期間延長に関する原子力規制委員会による審査をなくすとともに、別途30年目から10年ごとの審査で安全性を担保すると言います。しかし、その内容は明らかではなく、同等の審査といえるのかどうかわかりません。私たちの裁判の争点にもなっていますが、現在の40年時点での運転期間延長の審査では「20年後にケーブルや原子炉がどうなっているか」という将来の劣化状況を予測するような審査をします。現在の審査内容にも問題が多くあるのですが、もし審査内容が緩くなるようなことがあれば易くなるのではないかと危惧しています。停止していようがいまいが、機器や施設は時間の経過とともに劣化します。現行法の運転期間は、一律に使用前検査の合格の日からの期間とされているのですが、それは経年劣化による不確実性の大きいリスクを低減するために設けられた規定であり、運転停止期間中の劣化をも考慮したものなのです

権限を経産大臣へ

 もう一つ問題なのは、延長認可の権限を原子力規制委員会から経済産業大臣に移すことです。法律そのものも原子炉等規制法から電気事業法へ移すとされています。経済産業省というのは、これまで原発の推進と活用を強く進めてきた組織です。許認可権限が経産大臣に移れば、延長の判断は安全面よりも経済面が優先されるのではないかと懸念しています。

福島原発事故の教訓

 そもそも、原子力規制委員会は福島原発事故の教訓から新たに発足した組織でした。福島事故前は規制組織は経済産業省内にありました。規制機関と推進機関が一体化してしまい、推進側の意向に安全規制が影響を受けてしまっていたのです。この規制と推進の一体化は、安全軽視につながる根本的な問題と捉えられていました。それが福島原発事故の大きな教訓として、事故後に規制機関を独立させ、現在の原子力規制委員会ができたのです。
 原発の運転期間に期限を設けることと、規制機関と推進機関を分けること、この二つは、福島原発事故の最大の教訓といえます。今回の改正は、電気の安定供給や地球温暖化の防止等を理由に、この二つの教訓を忘れ去るものであり、まさに事故前に回帰するものと言わざるを得ません。

気候危機対策に原発?

 地球温暖化の防止と電気の安定供給の確保を理由に政府はこの法案を通そうとしています。地球温暖化の防止といって、必ず出てくるのは「発電時にCO2を出しません」という文言です。発電時以外はどうなのでしょう。核燃料の処理や廃炉、放射性廃棄物の処分・管理などライフサイクル全体で見た場合の議論は全くありません。放射能汚染のリスクも含めた環境面全体で考える必要があります。

原発は攻撃対象

 物価高騰の引き金となったウクライナ戦争に乗じて、電力自給率の問題が指摘され、原発の活用の必要性を訴える人もいます。しかし、ウクライナ戦争で私たちが目にした事実は「原発は攻撃対象になる」ということ。今、国はミサイル防衛や敵基地攻撃能力の議論を盛んにが、私たちは原発が攻撃対象になることを見てしまったのです。まさにその最中に、原発をすみやかに廃止するという議論ではなく、全く反対の積極的な活用の議論をしていることに大きな違和感があります。しかも、これまでの政府の方針を大転換してまで。

私たちが学んだこと

「電気代が高くなるから原発の活用を」という声も相変わらずあります。でも原発でつくる電気は高いものです。ごまかしの議論はいくらでもできてしまうものですが発電コストに関する正しい情報や認識を、どこかに忖度などしない、信頼できる情報源から得ることは非常に重要だと思います。
 12年前に、私たちは「原発は安全最優先で考えなければ」ということを学んだはずです。今だからこそ声をあげましょう。「命や安全よりも優先すべきことなのか」「福島原発事故を忘れてしまったのか」と。

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