【23.04.10】松本 篤周さん (弁護士) 安保法制違憲訴訟!高裁へ

開き直り不当判決!

 
松本 篤周さん

安保法制違憲訴訟あいち訴訟団事務局長。名古屋大学法学部卒。名古屋法律事務所。名古屋南部あおぞら裁判、労働事件 日照権問題などを担当。

不当判決!

 3月24日、安保法制違憲愛知訴訟の判決は、原告の訴えを退ける判決でした。ここまで酷い判決か、というのが実感ですね。
 全部で百ページ弱の判決文ですが、実質判断は8ページです。
 私が注目していた点について述べます。第一に裁判所は平和的生存権について「憲法前文、9条及び13条を合わせ考慮しても、具体的権利として保障されているとは認められない」と否定、原告らの主張した人格権侵害、平穏生活権侵害についてもことごとく否定しました。
 国会賠償までは難しいとしても、憲法的に問題があるという判断を示させたいということでたたかってきていますが、全国の裁判は残念ながら今のところ全敗です。
 違憲判断はでていませんが、なぜ憲法判断に入らないかという「言い訳」をいくつかの地裁で出しています。が、今回の名古屋地裁は、その「言い訳」すら一切ありません。 
 もう一つは防衛政策、安保3文書で示された敵基地攻撃能力保有など安保をめぐる情勢についての情勢判断も全く示されませんでした。それどころか「原告らが主張する精神的苦痛は・・・・・抽象的不安」として「単なる政治的意見の対立から文句をつけている」といわんばかりの驚くべき判断を示したのです。
 「憲法の番人」「人権保障の最後の砦」である裁判所が憲法に照らして違憲か合憲かを判断する司法の存在意義が問われているのに、その自らの違憲判断の職責を放棄しておいて「単なる意見の対立を裁判所に持ち込むな」とばかりに逆に攻撃的な認定をしています。
 政権にかかわることは、最高裁の顔色を伺うということすらもなく、「面倒くさいことやらせるな」そういう裏側の声が聞こえてくるような判決です。
行政に対して文句言うな、「無罪」は行政権である検察に立てつくことですから「無罪は書くな」、よっぽどはっきりしないと再審決定は出さない。国のあり方の根幹のかかわることについては、多くの裁判官が、行政寄りの最高裁の姿勢に忖度して自己規制をしているのではないかと思います。 政権の根幹に関わるようなことに裁判所は口出しするなっていうことが暗黙のうちに裁判官の中に染み付いていて、それに逆らったら裁判官人生は終わりだという空気感です。
 かつて(昭和40年代まで)は、裁判官は、憲法が保障するとおり独立していました。最高裁でも公務員の労働基本権の制限が憲法違反であるという判決が出され(昭和41年全逓中郵事件判決)、裁判官達も、判決の内容で自分の任地などに影響を受けるなどと恐れる事もなく、地裁レベルでも、長沼ナイキ訴訟での自衛隊違憲判決などが出されていたのです。そこから政府による最高裁裁判官の保守的な裁判官への入替と、それに続く最高裁による青法協会員裁判官への弾圧などで抑え込んで、最高裁の労働基本権制限の違憲判決も合憲判決に塗り替えられていきました。今はその体制が完成してしまい、最高裁がガイドラインを示さなくても、裁判官自らが忖度する状況が作り上げされてしまっていると思います。
 それでも青山弁護士(自衛隊イラク派遣違憲名古屋高裁判決を出した元裁判長)のように、高裁レベルで、定年前の高裁裁判長の良心的な人が最後に出すというケースはありました。それもだんだん難しくなりつつあるという感じです。

 

弁護団事務局長として

 私は名古屋南部の公害訴訟などにかかわってきましたが、憲法訴訟は初めてです。安保法制違憲の裁判は、住民の人たちの強い要望と全国の弁護団からの強い熱意と「圧力」で、やる必要のある裁判だと、もうやるしかないと受けたんです(笑)。
 印象に残っているのは、ノーベル賞受賞の益川敏英さんを担当し、生の声を聞いて陳述書を作りました。益川さんは、5歳の時に自宅の屋根を突き破って焼夷弾が落ちてきて、たまたま不発だったので命が助かったこと。親にダイハツ車に乗せられて火の海の名古屋の街の中を逃げたのが映像として頭の中にいまでも焼き付いてる、ということを聞きました。そしてその体験を原点に、科学者の責任とは何かと話されたのです。「科学者である前に人間であれ。」と物理学者の坂田昌一先生の言葉が貼ってありました。ご一緒に写真を取れなかったのが残念です。
 今でも印象に残っているのは、「ノーベル賞受賞演説の草稿に、平和が大事だし、科学者がどういう役割を果たすべきかとかなり突っ込んだ反戦みたいなスピーチを書いて関係者にこういうこと喋るんだ」と話したそうです。そしたら、ある学者から「ノーベル賞受賞を政治的に利用するべきじゃない」という雑論が聞こえてきたので、頭にきて「何を言っとるんだと、むしろ大事じゃないかと、もっと強い口調ではっきり言って堂々と読み上げてやった」と話してもらいましたがそういう思い出も心の中にあります。その益川先生は法廷で尋問させていただく前に亡くなってしまったのは心残りです。

高裁に向けて

 全国各地で反転攻勢にでようとしています。
 仙台高裁(福島訴訟)の小林裁判長が憲法学者の長谷部恭男さんを証人に採用しました。道東訴訟で、札幌高裁裁判所の裁判長が原告弁護団に対して、人格権、平和的生存権の関係について詳しく質問をし、それに答える準備書面提出を求めています。道東訴訟札幌高裁と福島訴訟仙台高裁の訴訟の判決は注目されるところです。愛知もこうした全国の動きにつづいて立証、活動をひろげ控訴審を頑張りたいとおもいます。ご一緒に頑張りましょう。

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