【23.05.10】布施 祐仁さん( ジャーナリスト)――「安保三文書」で進む日米軍事一体化

外交こそ戦争を防ぎ平和を実現する力

 
布施 祐仁さん
ジャーナリスト
日本平和委員会機関紙『平和新聞』元編集長。『日本は本当に戦争に備えるのですか?:虚構の「有事」と真のリスク』を出版(2023年4月・共著・大月書店)。

米国との 「完全一体化」宣言

 岸田内閣は昨年末に「安保三文書」を閣議決定し5年間で43兆円の大軍拡路線を突き進もうとしています。バイデン政権は昨年10月、「国家安全保障戦略」で、中国との覇権争いに勝利し米国が主導する国際秩序を維持・存続することを最優先の目標としました。昨年1月に開催された日米安全保障協議委員会の共同発表文書では「未だかつてなく統合された形で対応するため、戦略を完全に整合させ」るとして日本はアメリカの戦略に完全に追従し、同盟国としての役割を果たすことを表明しました。安保三文書の本質は米国との「完全一体化」宣言です。
 第一列島線(鹿児島県の種子島、奄美大島、徳之島、沖縄本島、宮古島、石垣島、与那国島と連なる日本の南西諸島)上に中距離ミサイルを置き、北朝鮮や中国に届くような長射程のミサイルを持つ、敵基地攻撃も可能にする政策に大転換させました。まさにアメリカの戦略と軌を一にした動きです。

台湾有事を想定、沖縄は再び「捨て石」に

 2021年12月下旬に、自衛隊と米軍が台湾有事を想定した新たな日米共同作戦計画の策定作業を開始したと「共同通信」がスクープしました。日本政府がすすめてきたのが、南西諸島への陸上自衛隊のミサイル部隊の配備です。今年1月にアメリカの有力なシンクタンク(CSIS)が、2026年に中国が台湾に侵攻する事態を想定したシミュレーションを実施しその結果をレポートで発表しました。「中国の台湾侵攻は失敗するが、米日が払う代償も大きなものになるだろう。嘉手納基地の滑走路には日米の機体の残骸、軍の病院に収容の負傷者は数百人に上り、仮設墓地も作られているだろう」と生々しい記述があります。私は、台湾に近い沖縄の先島諸島をまわって取材してきましたが、そこでよく耳にしたのは、自分たちは「捨て石」にされるのではないかと。
 アジア太平洋戦争で沖縄県民の4人に1人が犠牲になった沖縄の人々にとって、「捨て石」という言葉は非常に重い意味を持っています。沖縄の人々は、不安を募らせています。

戦場になるのは沖縄だけではない

 アメリカは日本列島を丸ごと「ミサイル発射台」にしようとしています。中距離ミサイルを北海道から沖縄まで、日本中のあらゆる場所に分散して配備できれば、中国は狙い撃ちしにくくなると米国防省関係者が証言しています。在日米軍の主力部隊は中国のミサイル攻撃を回避するために、日本から退避することまで考えています。
 共産党の小池議員の国会質問で、300地域の自衛隊施設がミサイル攻撃を受けても活動を継続できるよう強靭化し司令部を地下に作る計画が明らかになりました。

戦争を起こさせない

 中国が台湾に侵攻することは現実的に迫った危機でしょうか。専門家は中国や北朝鮮がいきなり日本だけを攻撃することは考えにくいとはっきり言っています。
 中国の武力行使のレッドラインは台湾の独立です。蔡英文総統は台湾は独立国家を宣言する必要はない、現状維持が今の我々の方針だと言っています。台湾の世論調査でも8~9割は現状維持を求めているのです。
 日本のほうが「中国が攻めてくる」と熱くなっています。アメリカの著名な国際政治学者のジョセフ・ナイは2021年6月の読売新聞で「米中間には経済・環境で相互依存関係があり冷戦に至る可能性が低くなっている。ましてや熱戦になることは考えにくい。」と指摘しました。ジョセフ氏の言う通りです。

戦争の本当のリスクは?

 お互いに戦争を望んでいなくても、大国間の覇権主義争いを繰り広げていると緊張が高まって、何かのきっかけで偶発的な衝突で、戦争が起こる危険があります。第一次世界大戦に至る過程で見られた通りです。
 米中の覇権争いに巻き込まれる懸念を強めているのはASEAN(東南アジア諸国連合)です。地理的にも、アメリカと中国に挟まれています。インドネシアのルトノ外相は昨年9月の国連総会の演説で「私たちは新たな冷戦の駒になることを拒否します。代わりに、全ての国との対話と協力のパラダイムを積極的に推進していきます」と訴えました。2019年の首脳会議でASEANが「誠実な仲介者」となり、競争ではなく、対話と協力のインド太平洋地域を目指すと明記しています。インド太平洋構想です。
 残念ながら日本はアメリカと軍事的に一体化して中国との軍拡競争に進もうとしています。日本政府の姿勢を転換して米中の対立激化の緊張を緩和し仲介外交を進めていく。これこそ日本がやるべき道だと私は確信しています。

米中国交正常化を実現した田中角栄首相

 1972年、田中角栄首相は中国を訪問し国交を正常化しました。直後の国会(同年11月9日参議院予算委員会)で田中角栄首相は「日本が間に入って日本、中国、アメリカという正三角形で対話を進めていこうじゃないか、それが平和に寄与することだ。これまでのように中国を日米で封じ込めるようなやり方に比べて、よほど平和的だということは、申すまでもない」と。実際、日本の対中外交が、地域の平和を作り出しました。中国との国交正常化して6年後の1978年、中国と平和友好条約を締結しました。これがアメリカの外交に大きな影響を与え、アメリカ政府も早く中国と国交を結んで経済関係をつくろうと1979年に国交を正常化します。それまでアメリカは台湾と軍事同盟を結んで台湾に米軍を駐留させていたのですが、台湾との相互防衛条約を破棄しました。1979年年1月1日、台湾の統一はそれまでのように武力ではなくて、あくまでも基本的に平和的という内容で宣言。米中外交によって、台湾海峡の平和が作り出されました。その後押しをしたのが、日本の対中外交でした。
 日本は中国と恒久的な平和友好条約を結んでいるわけですからアメリカと中国の間の架け橋となって、戦争しないように戦争を予防するような外交というものを展開すべきだと思います。

外交こそ平和を実現する力

 今、私たちは非常に大きな岐路に立っていると思います。ロシアのウクライナ侵攻以降、力には力で対抗するしかないとの流れが広がっている面もありますが決してそうではない。日本がアメリカと一体となって中国との軍事的緊張を高める方向に進むのか、それとも平和憲法を生かしてASEANと力を合わせて米中戦争を予防する方向に進むのか、そういうところに今私たちは立っていると思います。
 外交にこそ戦争を予防し、平和を実現する力があるということを、私たちがどれだけ広げていくことができるか、日本の未来、アジアの世界の未来が変わってくるだろうな、と考えています。
 日本は軍事費に何十兆を使っている余裕はないですよね。暮らしを守るためにも軍拡ではなく外交の声を広げていく。
 私も一人のジャーナリストとして、そのことを強く、これからも訴えていきたいと思っています。

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