/自衛隊の人権を守ることの意義
佐藤 博文さん
自衛官の人権弁護団 全国ネットワーク代表。北海道合同法律事務所。空自現職女性自衛官セクハラ訴訟、自衛隊情報保全隊国民監視差止訴訟、18歳名簿自衛隊提供違憲訴訟など自衛隊に対する訴訟を多数取り組む。
米軍とともに戦争できる「兵士」作り
急ピッチの戦争遂行体制の構築と並行して、災害救助の自衛隊というイメージを利用したまま、米軍とともにいつでもどこでも戦争できる「兵士」作りの〝突貫工事〟が進んでいます。自衛隊内のハラスメント、不祥事はこのような中で必然的に起きています。
自衛隊の国際的な表記は、JapaneseMilitaryForce、つまり国軍です。今や陸上自衛隊はJapaneseArmy(日本陸軍)、海上自衛隊はJapaneseNavy(日本海軍)、
航空自衛隊はJapaneseAirForce(日本空軍)です。
自衛隊は米軍の指揮下に入るようになり、数ケ月間、アメリカで訓練をするようになってきました。アメリカでの訓練を終えた自衛隊員が帰ってきて「人殺しをするために自衛隊に入ったのではない」と辞めたいといっても辞めさせてくれません。私たち弁護団は、こうした相談を受けています。
安倍元首相が国会質疑の中で、自衛隊を「わが軍」と呼んで大問題になったとき、政府は国際法上、軍隊であることを認めています。
日本の自衛隊は軍事力ランキングでアメリカ、ロシア、中国、インドに次ぎ5番目、核保有国のイギリス、フランスより上です。
軍隊の実態が国民に可視化されていない
自衛隊の存在が、憲法9条2項で不保持を定めた戦力=軍隊である否かが長年にわたって争われ、軍隊性を否定する政府や自衛隊がその実態を隠したり過小に見せてきました
護憲平和運動からは、自衛隊員や家族の人権といった「組織の中」にまで議論や問題意識が辿り着きませんでした。
特に若い人たちにとっては、軍隊としてのイメージはなく、災害出動です。災害救助で国民の役に立ちたいと。なぜならば、自衛隊法3条にもとづく防衛出動は一度もなく、83条に基づく災害出動が全面に出ていたからです。しかし、いま「日本の戦争」が具体化するなか、軍隊の本質が顕在化してきています。
五ノ井さんの性暴力事件の衝撃
2022年7月、陸自隊員の五ノ井さんが、インターネットで性暴力被害を訴え、第三者機関による調査、「自衛隊内のハラスメント経験のアンケート」を呼びかけ、社会に衝撃を与えました。
寄せられた146人のアンケートは衝撃的な内容です。飲み会で体を触ったり、男性隊員の局部に服の上からキスを強要。宴会で野球拳に参加させられ服を脱ぐのを拒否すると平手で顔を殴られた。飲み会の席で准尉から胸を揉まれ、キスをされたが、周りは見てみぬふりだった。演習中、三尉に強制性交されたなどが明らかになったのです。
こうした事態に軍事力増強に致命傷になると慌てた自衛隊・防衛省の対応は、全隊員に特別防衛監査をおこない、同時にハラスメント防止対策有識者会議を設置しました。しかし、有識者会議の議論や提言は、自衛隊の深刻な人権侵害の実態に迫るものではなく、官邸や国会に介入させないようにするためでした。特別防衛観察に対する失望と批判が自衛官の人権弁護団に寄せられました。
自衛官の人権弁護団、防衛省に申し入れ
自衛官の人権弁護団全国ネットワークは自衛隊員や家族の切実でリアルな意見を集約し、防衛省・自衛隊、政府・国会に追及するために根絶アンケートを実施し、院内集会開催、防衛省申し入れなど取り組みました。
米国国務省が五ノ井さんに2023年「国際勇気ある女性賞」を出しました。米軍130万人のうち2021年性暴力申立は8,866件、セクハラ苦情申立3,177件です。戦闘行為に従事した米兵の自殺者は、一日20人、1年で7千人を超え、PTSD患者は60万人以上です。このようにアメリカは兵士の人権問題は非常に深刻で、政府の積極的姿勢を国内に示し米国の優位性を国際的アピールに利用しました。
兵士の本質は「賭命義務」
軍隊の任務は、武力の行使です。公安職と同列にするのは間違いです。公務の中には、それを遂行する上で生命の危殆に直面することもありますが、兵士には「自らの命を賭けて相手をせん滅(殺傷)せよ」という服従義務=賭命義務があります。これにより、国家は兵士という特定の個人に国家のために犠牲になるように命じ得ることができます。新入隊員の「格闘の心構え」として「・・・・・初動よく敵の死命を制しなければならない」と、殺傷訓練を日々行っています。
現行憲法13条の個人尊重主義からみて、1948年の最高裁死刑合憲判決は「命は尊貴である。一人の命は全地球よりも重い」と判示しました。この趣旨からみれば、国家が「全地球」より重いことを命ずることなどできないと思います。
兵士の人権を守ること
憲法9条を蘇生させること
日本国憲法第9条第2項「戦力の不保持」には、兵器だけでなく、兵士も含みます。
戦前、人を人と扱わない無権利状態で無謀で非人道的なたたかいを強いたが、戦後も清算されないまま自衛隊に引き継がれました。 憲法9条を蘇生させるたたかいを人権の観点から、兵士の人権を守ることを再構築しましょう。軍隊を誤らせないことです。若者を再び徴兵、戦場に送りださないために。