【22.10.10】川口 洋誉さん(愛知工業大学准教授)ーー誰もが学べる社会のスタートラインを!

安倍「国葬」と教育の現場

川口 洋誉(ひろたか)さん
 
1979年生まれ。愛知工業大学准教授。名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。専門は教育行政学・教育法学。瀬戸市学習教室ピース主宰。主な著書に「ここまで進んだ!格差と貧困」(新日本出版社)、「子どもの貧困と地域の連携・協働」(明石書店・共著)

国葬反対の多くの声を 押し切って

 「国葬」に法的根拠はありません。安倍政権発足以降、国会軽視、民主主義軽視、閣議決定で決める手法がまかり通っています。こうしたやり方が岸田政権にも受け継がれており今回の「国葬」も非常に曖昧な形で行われようとしています。
 行政の行政権の乱用による結果であるとみています。

一方的メッセージとして

 1人の人間の国葬という特別なセレモニーは、子どもたちには「偉大な人」「すごい人」と一方なメッセージとして伝わっていくと思います。
 総理大臣は、と聞くと「安倍晋三さん」という若者は多いのではないでしょうか。マスコミの取り上げ方の問題もあるとは思いますが、ずっとテレビに出ていた人という親近感があって、安倍さんの国葬が行われるのは人格だけではなく、業績も含めて肯定的に受け取らせるような機能は持つだろうと思います。
 弔意の明確な強制がないにしても、このような雰囲気の中から、子どもを守っていくのは地方教育委員会や学校にあると思います。それが明日どれぐらいやられるか、注目していきたいと思います。
 学校現場では、政治的中立の立場が求められているということから過度な自己規制もあります。同時に異常な長時間労働で、社会問題を学び、子どもたちにどう伝えようかと考える余裕がない現実があります。社会問題を考えられるだけのゆとり、教員の労働条件の改善は急務です。

「教育の憲法」の改悪

 2006年、教育基本法が改正され、第二条の「教育の目標」では「我が国と郷土を愛する態度」の育成などその「達成」を、国民全体に義務づけています。この目的は道徳教育だけでなく各教科にわたって散りばめられています。
 学習指導要領では社会科の目標を「わが国の国土と歴史に対する愛情を育てる」としています。社会科学として事実をどう捉え、どう考えるかではなくて、結論ありきで心の問題として扱われています。過去の歴史がどうであっても、国を愛することをめざせということです。教育基本法は、かつては「教育の憲法」と言われていましたが教育基本法が改悪され、その性格は後退してしまっています。

主権者教育と政治的関心

 主権者教育の不十分さは若者の政治的関心の低さの要因の一つと言われてきました。2000年代に入って主権者教育が強調されてきましたが「政治的中立性」に配慮し、学校現場では現実問題が使われない。架空の政党への模擬投票をさせていますが、投票行動については理解できても、いくつかの政党の政策から自分がどうやって判断していくのかという考え方のとこまでには至らないものとなっています。
 安倍元首相は何をやってきたのか。そもそも民主主義の問題として国葬はどうなのか、考えることができにくい。もちろん現場で実践している教員はいると思うんですけど。

誰もが学べる スタートラインを

 子どもたちはしんどいです。生活もままならない家庭の子どもは、学びのスタートラインすら立てないのです。個人として認めてもらえる居場所、人間関係が、家庭以外にも作られることが大事だと思います。その上で、学びに気持ちが向かうし、将来のことへの希望や未来を切り開いていきたいと思える気持ちが芽生えると思います。
 格差をなくす社会のあり方が求められています。そういう社会をつくらないで、「国を愛せ」の掛け声ばかりで子どもたちはしんどいだろうと思います。

権利の主体として行動する経験を通じて

いま、憲法や「子どもの権利条約」に立ち返ることが求められています。
 子どもの権利の基礎は、多様性です。子どもたちを、人格を持った人間として尊重し、保護する。大人の言いなりの存在ではない。上から無批判に愛国心を押し付けてはいけません。
 子どもたちの声からブラック校則を改めさせようという運動が広がり、現実的に校則も変わっていっています。子どもたちがいる社会、生活環境をちゃんと自分たちの力で変えられるという経験が大事です。こうした経験を通じて、一見、遠くにあると感じる国の問題も、
身近な問題として考えていくことができる基盤が子どもたちに育ってくると思います。

瀬戸市学習教育ピース

 瀬戸市で、同市社会福祉課からの委託を受けて、愛知工業大学教職課程の学生がサポーターとなり、経済的困難を抱える子どもへの学習支援を行っています。7年になります。小学校から高校生が参加し、勉強やゲームなどで楽しい場所となっています。教室や組織の運営は学生たちが主体的に行っています。学生たちの自治的体験は、教師、市民、労働者として必ず次につながる経験だと思います。
 安倍元首相の国葬強行後の政治をきちんと見て、主体的に行動していく事がますます求められていると思います。

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