【22.11.10】岡村晴美さん(弁護士)――共同親権問題とDVを考える

 
岡村 晴美さん
弁護士・名古屋南部法律事務所平針事務所。
名古屋市生まれ。名古屋大学法学部卒、2007年1月に弁護士登録。
女性の権利擁護に関する事件を中心に取り組む。愛知県弁護士会両性の平等に関する委員会、愛知県弁護士会男女共同参画推進本部、マタハラ弁護団東海など。

共同親権とは何か

 現在、離婚後の子どもの養育をめぐり制度の見直しが法制審議会で審議されています
 日本では、婚姻時は共同親権制度がとられ、離婚時には単独親権とすることが定められているため、共同親権制度を主張する人たちは、「日本は単独親権制度だから、離婚により親子の永遠の別れとなってしまう」と主張しています。
 しかし、民法766条は、離婚後の子どもと別居親の関わりについて、「子の利益を最も優先して考慮」して定めると規定しており、離婚したからとって親子の別れになるわけではありません。別居親は家庭裁判所に面会交流の申立てをすることができます。法的手続をとっているのに面会交流が認められないとすれば、面会交流をすることが、子どもの最善の利益に適わないと判断されたということになります。
 2012年に、東京地裁の裁判官が面会交流の有用性を説く論文を発表し、特別の事情がない限り面会交流は原則として実施すべきという運用がされるようになりました。
 「離婚しても親は親」、「両親に愛されることが子どもの健全な発育に寄与する」という言葉で、DVや虐待は軽視され、子どもの意思すら無視されて、面会交流が推奨されてきました。
 このような状態で、離婚後共同親権が導入され、離婚後の子どもに関する事項の共同決定が強制されることになれば、「進路に同意して欲しければ頭を下げに来い」などと言って、DV加害者が別れた家族に対する支配の継続のため共同親権制度を利用することが生じるでしょう。
 自民や維新の議員の中には、子連れ別居を処罰しようという動きすら生じており、子どもを連れて別居した人たちに「実子誘拐」「連れ去り」などの批難が加えられています。
 しかし、子連れ別居にいたるには、それぞれ経緯があります。子どもを連れて別居する当事者は、女性であることが多く、その声はほとんど取り上げられることがありません。
 家庭内のみでなく、社会的にみても権力格差が非常に大きい。自分と子どもの尊厳を守るために子連れ避難したママたちに、「お前は犯罪者だ」といって刑事告訴して、どうやって「共同」できるのでしょうか。

ジェンダーバックラッシュとしての共同親権運動

 共同親権運動の背景には、「家族の絆」を無条件に押しつけてくる人たちの存在があります。
 5、6年前ぐらいから、日本でも、#ME TOOがムーブメントとなり、2019年にフラワーデモが起こると、暴力による被害を訴える女性がクローズアップされるようになってきました。
 DVに関しても、「殴る蹴るだけがDVじゃない」という意識が高まりました。共同親権運動は、こうした動きに反対し、圧力をかけたい勢力にとって、都合のよい活動なのだろうと思います。
 シングルマザーをサポートする団体や、DV離婚事件担当の弁護士、男女共同参画センターなどへの敵視が甚だしく、共同親権を標榜する団体が街宣活動をしたり、SNSを利用した誹謗中傷などの嫌がらせが行われています。
 今年の10月には、共同親権団体と反児相(児童相談所)団体が連携し、国連自由人権規約委員会に、「日本では、虚偽DVをでっち上げて子どもを連れ去るように指南し、お金儲けをする弁護士や男女共同参画センターやシングルマザーの団体が利権のために実子誘拐をしている」という報告をしています。こうした動きに、政府がきちんと対応していません。
 私の個人的な経験としても、弁護士会への懲戒請求、民事裁判の被告にされる、講演をやれば主催者に「そのような弁護士を使うべきじゃない」と電凸(電話による突撃)、テレビや新聞に取り上げられると苦情を寄せられ、事務所にはSNSで低評価がつけられ、発信をやめろという怪文書が届いたこともあります。Twitterで、「岡村晴美」と検索していただけるとその実情が分かります。

憲法24条への攻撃

 自民党は、憲法改正草案で憲法24条に「家族は社会の自然かつ基礎的な単位として尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。」と新しく規定し、「家族」の尊重を目指してます。親子の絆を絶対視する考えの背景に、統一教会や日本会議などの思想が影響しているのではないかという点が気になります。
 日本のDV被害者保護の法制度は弱く、DVにあったら逃げるしか方法がありません。こういう人たちに対して、「子どもを連れて逃げたら誘拐罪で処罰する」と脅し、「逃げたところで共同親権だぞ」と、何がなんでも逃すものかとしているのが怖いところです。
 英国、オーストラリア、カナダなどこれまで離婚後の共同親権を推し進めてきた国々は、同居親と子どもの安全を第一に考える方向に転換し始めています。
 家族は安全であるべきだけれど、家族は時として家族ゆえに危険です。家族は助け合わなくてはいけないという原則の強調は、DVや虐待の軽視につながります。
 共同親権という運動が、ジェンダーバックラッシュであり、DV被害者叩き、支援者叩きのために使われているということを皆さんに見抜いてほしいと思います。

人が人を支配する構造 から人権の尊重へ

 私は、小学校5年生の時にいじめにあいました。無視され、ばい菌扱いされ、いすに画鋲がばらまかれ、下駄箱の靴に牛乳を浸したパンが入れられました。机を蹴られ、床に散らばった文房具をひろい集めながら、誰も助けてくれず、みじめすぎて、死にたいと思いました。団地の屋上に上ったのですが、怖くて足がすくみ死ぬことはできませんでした。
 逃げ込んだ図書室で、人間には人権があるということを知り、弁護士という職業を目指したのです。
 どうしようもなく、みじめな気持ちで傷ついている人は、かつての私です。共同親権に反対する活動を始めたことで、攻撃をされたところで、依頼者は家庭の中でこういう思いをしていたんだろうと思うと、くじけていられません。
 DVや虐待に取り組む弁護士が中心となって、離婚後共同親権やDVに関する様々な論点について発信していますので、ご覧いただけたらうれしく思います。(共同親権を正しく知ってもらいたい弁護士の会のHPをご覧ください。QRコード 参照)
 家庭におけるDV、職場におけるパワーハラスメント、学校でのいじめの問題は、密室で、密接、継続的な人間関係の元で、人が人を支配するハラスメントの構造をとることに共通点があります。
 ハラスメントは、個人的な問題ととらえがちですが、人権問題であり、社会的問題であると捉える必要があります。ハラスメントについて知識を得ることは、個人を尊重することの学びでもあります。
 ハラスメントが蔓延している国だからこそ、この国を変えるチャンスになるかもしれない。それをむしろ希望に思って頑張ります。

【共同親権を正しく知ってもらいたい弁護士の会】
 https://note.com/kyodo_shinpai/

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