【15.01.10】『信任』で異論許さぬ道を憂える―川村範行

川村 範行(名古屋外国語大学特任教授/日中関係学会副会長)

 
 総選挙で自民が圧勝し、与党が議席3分の2を維持した。選挙前とほぼ同じ状況で、何も変わらないのか。いや、違う。2年前に自民が政権復帰したのは民主党政権への失望と反動からだったが、今回は国民から再選されたことにある。安倍政権は「国民の信任」という大義名分を掲げて、目指す憲法改正、集団的自衛権行使へ堂々と踏み出す。日本の針路の一大転換点である。
 自民は全有権者の3割弱の得票しかなく、国民の支持を得たとは言えない。また小選挙区制で党公認の生殺与奪権を握る安倍総裁の意向が絶大な権力を生んでいる。国会活動において政策に異論を唱えられない。立法と行政の三権分立が機能しにくい。野党の主張に耳を貸さない強権的な政治運営が一層強まる。議会制民主主義の危機でもある。
 この先、安倍政権は目指す政策のための法案成立に移る。政策実行の際には特定秘密保護法案が衣の下の鎧を隠す武器になる。この道を選択したのは「国民」ということになる。かつてドイツでヒットラーが政権を握ったときも耳触りの良い経済政策で国民の支持を拡大し、戦争遂行とユダヤ人迫害へと突き進んだ。 1931年の満州事変の数か月前に東京帝国大生へのアンケートで、中国への武力行使やむなしとする回答が8割を占めた。日中戦争、太平洋戦争へと拡大したのは軍部の独走だけではなく、それを後押しする社会の「空気」があったからだ。日本社会独特の「空気」は異論を排斥する。今の空気が総選挙を経て益々異論を許さない、「この道しかない」という方向へ突き進むことを真に憂える。

*川村範行さんは、2014年11月号インタビューに登場され、「日中関係改善へ 民間交流のきずなを強く!」と語っていただきました。

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