【13.05.10】この人に聞く 河田昌東さん(チェルノブイリ救援・中部)

価値観の転換こそ未来をつくる チェルノブイリを教訓に未来に種をまこう―福島復興・菜の花プロジェクト

 
1990年からチェルノブイリ事故被災者への支援活動に取り組み、いま被災地福島の支援を続けておられる河田昌東さん。

南相馬市へ行かれる前の忙しい中に事務所を訪ね、お話を伺いました。              
(聞き手・岩中美保子 撮影・加藤平雄)(2013年4月22日)

 

   

河田 昌東(かわだ まさはる)さん

チェルノブイリ救援・中部理事 運営委員。1940年秋田県能代市生まれ。東京教育大学理学部。名古屋大学理学部大学院。専攻は、分子生物学。救援活動23年。

救援活動23年

 1986年4月26日、チェルノブイリ原発事故が起こり、被曝国日本の人間として役に立ちたいと出発した救援活動は、今年で23年経ちました。
原発事故は自然災害と違い放射能の影響で復興は簡単にはいかないという事情があります。これは、今後の福島にも言えます

ナロジチ再生・菜の花プロジェクト新たな段階に

 ウクライナの被災地で食べもの、飲み物が原因の内部被曝で感染症、死産などが増え、この解決のために考えたのが「ナロジチ再生・菜の花プロジェクト」です。ウクライナで発表された、ナタネの仲間が極めて強く汚染するという論文がヒントになりました。

様々な論文を勉強し「ナタネで効率よく土壌からセシウムを除去できる」と考え、18ヘクタールの汚染栽培禁止区域を無償で借り、現地の国立農業生態学大学の全面的協力で5年間、ナタネ栽培をして新しい事実がわかりました。

 ナタネは連作が出来ず連作障害を避けるために栽培した裏作の小麦やライ麦などは、きわめて汚染が少なく、食用や家畜飼料として利用可能という発見です。
 これをもとに、昨年8月にジトミール州政府がナタネの大規模栽培計画(汚染地域の復興計画)を提案し、この秋から500ヘクタールで菜種栽培とバイオエネルギ―工場をつくることになりました。

 5年間、様々な困難と闘いながら完成させたプロジェクトはウクライナで大きく花開こうとしていています。

南相馬の復興支援

 そんな時に、福島の原発事故が起こりました。チェルノブイリの経験を福島県南相馬市で生かそうと、3つの支援に取り組んでいます。

 一つは、放射能の空間線量率の定点測定です。南相馬市内全域を500メートルメッシュに区切り、970地点で測定し汚染マップを作成。当初は、名古屋からマイクロバスでいき測定していました。私も初日は18キロ歩いて測定に参加しましたが、そのうちに地元の人が「手伝うよ。」と言ってくれるのですね。今は、地元の方々とチームで組んで測定しています。今回で5回目の測定になりますが、これまでの測定で新しいことがわかってきました。
 空間線量率はセシウムの半減期の倍くらいの早さでどんどん減っています。現在、地域の43%が年間一ミリシーベルト以下です。作成したマップを公共施設や図書館、町内会ごとに配布しています。自分のいる所がどう変わっているのか一目でわかります。
 次は内部被ばくが問題です。

 二つ目の活動として「放射能測定センター・南相馬」という市民団体による測定所をつくり、住民に米、山菜や畑の土、井戸水や野菜を持ち込んでもらっています。測定は無料です。測定ボランティアを募集し、火曜日から金曜日交代制で測定、市民にデータを渡して説明します。たいへん喜ばれています。

 三つ目は、空間線量計の無料貸出しです。「今度は私たちが支援する番」とウクライナの人々が1万人募金をして下さり、そのお金で125台送ってくれました。それを南相馬市と名古屋市で無料貸し出しをしています。秋からは、南相馬市でも菜の花プロジェクトを実施し少しでも内部被曝をなくそうと準備中です。

私の無関心な生き方がつくった事故では」、と

 昨年、ある講演会で参加されたお母さんが「事故が起きるまで、自分が食べているものを誰がどこで作っているのか全く関心がなかった。電気がどこでつくられているのかも知らなかった。そんな生き方が今回の事故の遠い原因ではないか、自分の生き方がもたらした事故ではないか。」と半泣きで言うのですね。

 私は、小さいけれど、ここに希望があると思います。国民は確実に変わってきています。

内部被曝のリスクを最小化するために

 福島前と福島後の日本は変わった。今後、様々な形の汚染が全国化し、被曝による病気は増えると思います。チェルノブイリからの経験の冷厳な事実です。

 私たちは、この環境下で生きていかなければなりません。汚染食品の影響を軽減し被曝を最低限に抑える方策を考えなければなりません。

 政府の食品基準100Bベクレル/kgは非常に高すぎる。複雑な流通を通じて様々な汚染食品が日常生活に入り込んできますが、内部被ばくのリスクを最小化するために、私は一日10ベクレル以下になるように努力しようと発信しています。それは可能だと思います。

価値観の転換を政治に届けよう

 今、一人ひとりがどう生きるかが問われています。新たな社会の扉を開く価値観の転換が求められています。

 暫定基準を一刻も早く改定し、消費者の安全、未来の世代にこれ以上の禍根を残さないために私たちのやるべき事はたくさんあります。国や電力会社の責任を厳しく追及しながら、未来に向かって種をまき、価値観の転換を政治の世界に届けましょう。

 趣味はつくること。食べもの、花壇、オーディオ、パソコン組み立ても。味噌や発酵食品も。発酵食品は、フリーラジカル対策、放射能対策にいいですからね。(笑)

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