【13.10.10】岩月浩二さん―TPP日本の主権を外国企業に売り渡すISD条項-許されない憲法破壊への道!

 
岩月 浩二さん

1955年生まれ。弁護士「TPPを阻止する国民会議」世話人。愛知県弁護士会司法問題対策委員会TPP部会長・憲法委員会副委員長。「TPPに反対する弁護士ネットワーク」共同代表。守山法律事務所

国家主権を脅かすISD条項

 TPP(環太平洋連携条約)交渉に日本の政府は本格的に参加しはじめましたが、TPPに盛り込まれるISD条項は国家主権を脅かすものです。
 ISD条項とは、協定に反する加盟国の制度や慣行によって外国投資家が損害を被ったときは相手国政府を国際仲裁に訴えることができるというものです。多国籍企業と日本の政府の間の紛争は本来的には日本の裁判所で争い、日本の司法に服すべきものですが、日本の裁判所を回避して国際仲裁に訴えることを認めるというものです。国際仲裁といえば聞こえがいいですが、実態は、投資家民間法廷で、仲裁人は、グローバル市場原理主義を推進する一握りの人から選ばれます。
 TPPというと、関税の問題と考えられがちですが、実は国内の制度や慣行を多国籍企業にとって都合のよいように変える、これを非関税障壁の撤廃といいますが、これが一番の問題点です。
 そのためにISDでは多国籍企業に不都合なあらゆる国家の政策や制度、慣行を提訴でき、多国籍企業の利益を害するとされれば、違法だとして巨額の賠償を命じるのです。そこで通用するのは、国民の生命・健康より投資家の利益を優先するルールです。日本の国内で起きているのに、日本の司法権が及ばない紛争は、外交官の特権と在留米軍内部・公務に関する犯罪以外には例がありません。
 ISDによる例外は非常に広範囲で、日本の主権に関わる問題です。「すべての司法権は、日本の裁判所に帰属する」とした憲法76条1項に反する重大問題です。国内の裁判所に司法権を帰属させた理由は最低限の人権は、国内の裁判所が保障するというところにあります。 ところが、ISDは多国籍企業の利益を優先するルールを適用するのですから、日本国憲法の基本的人権尊重原則に大きく違反している。国際仲裁は、多国籍企業のために基本的人権を侵害する制度です。
 「自由貿易が拡大すればするほど世界の人々が幸せになれる。」と一握りの人たちが世界のルール、自由貿易のルール、TPPのルールを決め、多国籍企業のためにより良い環境を作っていこうとしている。
 「原子力ムラ」と同じように「国際経済法ムラ」があり、グローバル経済を仕切っているのです。

狙いは日本の市場

 私は、TPPの問題が浮き彫りになる中で、TPPは対日要求の総仕上げだと思いましたね。
 アメリカの多国籍企業は自国の資源を食いつぶしてしまい、今や国民の平均寿命も先進国最低レベルです。
そうした多国籍企業が次に狙いを付けたのがGDP世界3位の巨大な日本市場なのです。

日本国憲法の根本的改変に等しい事態に

 7月29日に、「TPPに反対する弁護士ネットワーク」を立ち上げましたが、宇都宮健児弁護士、伊澤正之弁護士とともに共同代表になり、「ISD条項を前提とするTPP交渉への参加を即時撤回することを強く求める」アピールを発表しました。多くの人たちと共同して運動を強めることが求められています。
 TPPの問題が農業、食料、医療、経済の問題と矮小化してはいけないとの思いです。
 国の制度や慣行の変更を迫られるということで、国民生活のあらゆる領域に関わる問題なのです。
 しかし、ISD条項が憲法問題であるということが市民はもちろん、法律家のなかでも十分知られていません。
 国家主権の法的形態が憲法です。
 主権が侵害されることは国内法的には国家の憲法に違反する事態が生じることを意味します。
 TPPにおけるISD条項は、日本国憲法76条に反するとともに、国会が国権の最高機関と決めた41条に反し、25条の生存権も脅かされ、日本国憲法の根本的改変に等しい事態を招くことにつながります。

国際法と憲法の関係

 あわせて、国際法と憲法がどういう関係にあるのかということです。国と国の関係を規律するのが「国際法」、国内の法律の体系を規律するのが「憲法」です。
 国際法上は有効だけど国内法では無効だということがあってもおかしくない。たとえ、TPPを批准したとしても、国内法では基本的人権の侵害などがあるので、ISD条項は、国内では憲法に反して無効であると考えて闘っていく必要があるのではないか。

1%のために99%が犠牲になる路線

 TPPは、1%のために99%が犠牲になる路線です。アベノミクスもそうです。
 こうした路線は、実は、全世界の国民を不幸にする方向にしかないのです。
 今年の6月に経産官僚で評論家の中野剛志さんらと『TPP黒い条約』(集英社新書)を刊行、第三章「国家主権を脅かすISD条項の恐怖」を執筆しましたが農業、漁業、医療関係者はもちろん、立場の違いを超えて多くの人々が危機感を感じています。
 私は町医者のような弁護士を心がけています。相談者の実感を聞いても、ボロ儲けする人の一方で庶民はどんどん貧しくなっている、こんな不自然なことがそう長続きはしないし、変えていかなければいけないと思います。
 生活実感でものを考えていく、声を上げていくことが大事ではないでしようか

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