【20.06.10】和田肇さん―コロナ禍から考える 社会の在り方―

セイフティネットの構築 連帯のしくみを!

 
和田 肇さん
1954年生まれ。名古屋大学名誉教授。専門は労働法。元名古屋大学副総長、反貧困ネットワークあいち共同代表。著書に「労働法の復権」(16年日本評論社)、「人権保障と労働法」(08年日本評論社)

日本社会や政治の問題が可視化

 新型コロナ禍で日本社会や政治が抱えている多くの問題点が一気に可視化されました。感染対策が後手後手に回っています。アメリカでは 感染対策の専門家がトランプの拙速な経済再開に警鐘を鳴らしましたが日本の専門家会議が何をどう議論しているのかわからない。コロナ対策は加藤厚労大臣から西村経済再生大臣に代わり、明らかに感染対策から経済対策に移ったことを意味しています。
 日本の政府の対策に対する満足度はものすごく低いです。結果的には感染者や死亡者が少ないということになっていますが、対策がうまくいった結果とは思えません。いままでの私たちの生活や行動パターンがコロナを広げることを何とか阻止したと考えたほうがいい。今後、対策の検証が必要です。

政治の腐敗は一気に噴き出し支持率急落

 森友問題、加計学園問題、桜を見る会、そして今回のコロナの問題で多くの国民が官邸の動きに関心をもつようになりました。検察庁法改定案の政治的強引さが明らかになり、政治の腐敗が一気に噴き出し、政権の支持率の急落になったと思います。
 非正規、フリーランスなど一番弱いところに被害が集中しています。2008年リーマンショック、2011年東日本大震など日本社会全体を揺るがしましたが、それと匹敵するような状況になっているのですが、国の対応が非常に形式的、官僚的で危機管理が十分ではないと強く感じられます。
マスクの問題もそうですが雇用調整助成金の問題、手続きに何十枚も書類をださないといけないなど日本の社会の脆弱さが露呈しました。

補償を打ち出し機敏に対応した国とのちがい

 国のトップがどのような対応をしているのか。アメリカのトランプの対応、ブラジルの大統領が一切経済封鎖をせず、感染者がアメリカについて二番目と急速に増えている、それに対して韓国、台湾、ドイツ、ニュージーランドの首相たちの対応の機敏さがとりだたされています。
 ドイツのメルケル首相は3月18日にテレビ出演し、国民に対して直接話しかけました。安倍首相の対応と比べて対照的だったと思います。ドイツは芸術家、フリーランスなど含めていち早く補償に動きました。

新しい変化―「SNS民主主義」

 「SNS民主主義」といえるかもしれませんが若い人たちを中心にSNSでの異議申し立てなど数か月の間に非常に大きく変化をし、新しい形が見えてきました。
 芸能人やスポーツ選手がツイッターで発言し、非常に大きな役割を果たしている。そして「私たちも税金を払っているし、考えていることをいう権利がある」と発言する、新しい文化だと思います。検察庁法改正案を断念させた大きな力だと思います。
 国民は物事の本質を見抜き始めています。
 同時にSNSの危うさも浮き彫りになってきています。運営会社がどれだけ責任を持つのかなど新しい時代におけるインターネットを使った表現活動の在り方を模索していくことが求められます。

これからの社会の在り方

 社会のあり方を考え直すきっかけにしていくことが大切です。毎日満員電車に乗って夜遅くまでの働き方は弊害を起こしています。テレワークの可能性、フレックスタイムの導入、単身赴任で家族と離れて暮らす働き方でいいのか。保育政策とか子どもたちの居場所の問題も考えていく。これを機会に本当の意味での働き方改革が必要です。
 コロナのような騒動は、一過性ではないと思います。災害や新しいウイルスなどがいつ起こるのかわかりません。全国の保健所数は848(1989年)から469(2020年)に削減されるなど医療がないがしろにされ、日本の感染症対策は研究で非常に遅れているといわれています。
 今回のコロナ騒動のなかで経団連は全く何も言わない。経営者で一人、二人発言する人はいましたが、日本の大手の経営者たちは全く無能であったと思います。むしろ市民のほうが健全でした。
 過剰なインバウンド、外国にサプライチェーンを全てもっていっていいのか、農業をどう考えたらいいのか、これをきっかけに考えなかったら何も学ばなかったことになります。
 自営業者、中小業者、フルーランス、芸術家にいつもしわ寄せがいくのですが、社会のセイフティネットをどうするのかが大きな課題になっています。連帯の仕組みが必要です。日本の社会保障システムをどうつくりあげていくのか、これからの課題ではないでしょうか。
 劣化した政治をどうするのかも課題です。

このページをシェア