零細中小業者を苦しめる
インボイス
川澄 延夫さん
かわすみ・のぶお さん
税理士法人 あいち税経代表社員税理士。
2016年に納税者の権利を守る税の支援者として税理士法人設立。元税務署職員。全国税労働組合、税務職員の労働改善、民主的な税制をめざして活動。
インボイスとは
今年10月実施の消費税のインボイス(適格請求書)制度は1000万人といわれるフリーランスに納税義務を広げるものです。
年間の売上高1000万円以下の業者はこれまで、消費税の納税を免除されてきましたが、インボイス制度は、課税業者になることを迫るものです。
これまでは、帳簿と記載書類の保存さえあれば仕入れ時の税額を引くことができました。売ったときの消費税が1000万円、仕入れ時の消費税800万円の場合、税務署への納税額200万円でした。しかし、インボイス導入後は、課税業者にならないと仕入れ時の消費税800万円が引けなくなり、税務署の納税額が1000万円になってしまいます。2023年10月以降、免税業者は、値下げ交渉をされる、応じない場合契約が難しくなり、廃業が増えかねません。
インボイスのねらいは?
消費税率は2019年10月から10%に引き上げられ、複数税率が導入されています。
岸田首相は、「インボイス導入の狙いについて複数税率の下で適正な課税を行うために必要」と説明していますが本当のねらいは、免税業者をインボイスの登録をさせ、課税業者として消費税を払ってもらう。将来的には消費税を値上げしていきたいとの狙いがあります。さらなる消費税増税の地ならしです。
政権の狙いどおりにいっているか
インボイスの発行が必要となる可能性のある業種は小売店、飲食店、サービス業、弁護士、税理士、個人タクシー、菅野配送業、農家、貸店舗・貸事務所・駐車場経営などの事業者や、バーのホステス・ホスト、ヤクルトの配達員、電気・ガスの検針員、小説家、イラストレーター、フリー記者、陶芸家、俳優、演奏家、タレントのフリーランスなど多くの事業者です。 「課税事業者に転換33%どまりに」(2023年9月22日中日新聞)と免税事業者のインボイス登録は進んでいません。インボイス制度の周知がほとんどされていないことに加えて、インボイス制度への反対の世論が広がっています。反対署名が52万筆を超え、反対の声が大きく広がっています。政権側が思っているような方向に進んでいないということです。
岸田政権は、内閣改造を行いましたが、支持率は上がっていません。
マイナ保険証でもインボイスでも多くの人が声を上げて、批判が広がっています。
これまで政治に興味がなかった人たちが、インボイス制度反対を通じて政治に関心を持ち始めています。地方議会から反対の声を広がっています。中小零細業者にインボイスを強要する一方で、戦争する国づくりに日英伊の共同開発の次期戦闘機に対し、消費税免税を検討しているのです。こんな状況に怒りが広がるのは当然ですよ。
いま本当に多くの皆さんか怒りの声をあげています。
免税業者と取引している方は、ものすごい悩んでいます。消費税かぶらなきゃいけないけど、価格下げるのは言いにくいと、本当に悩んでいます。経過措置として6年間は80%から50%は仕入れ額控除の適応があるのですが、6年後はなくなるのです。
インボイス廃止運動から消費税廃止運動へ
インボイス反対運動は消費税の本質的性格を明らかにしたと経済評論家の三橋隆明さんは述べています。『「STOP!インボイス」をはじめとした反対運動が、想像以上に広範囲に広がり、インボイスが注目されることでその本体である消費税の議論も始まってしまったことです。これは財務省にとって決定的なミスだったと思います」(税理士新聞23・7月)。
また、「免税業者は消費税を払っていなかったのだから吐き出すが当たり前じゃないか。」との間違った認識と攻撃がありますが、自民党の中村裕之衆議院議員は、「消費税の実際の納税者は消費者ではなく事業者です。納税者も納税義務者もいっしょであるということは、すなわち直接税なのです」と指摘しています。消費税は価格の上に税が上乗せされているのではなく、価格の一部なんです。
消費税を廃止するとすぐ、「かわりの財源をどうするか」と心配をする向きがありますが、消費税の増税は、いうまでもなく憲法に定める応能負担の原則を守る立場から反対です。
応能担原則・累進税率制度に基づいた税制に
消費税を廃止すればインボイス制度もなくなります。今求められているのは、インボイス廃止運動を、諸悪の根源、本家本元の消費税廃止運動にしていくことです。
消費税導入前の直接税中心の税制、応能担原則・累進税率制度に基づいた税制に徹底すれば財源は十分確保できます。
インボイス制度は、業者、フリーランスだけのだけ問題ではありません。インボイスはイコール消費税の問題です。すべての国民に影響しています。消費税の問題が明らかになりつつあるわけですから、国民全体に影響する問題です。そういう問題意識を持って運動していく視点が重要ではないでしょうか。