治安維持法100年 時代の逆行をゆるさない    ―排外主義は差別・分断 、大事なこと―事実を伝える

渥美 雅康 さん
  
 1955年生まれ 弁護士 国民救援会愛知県本部会長 金山総合法律事務所。1982年4月愛知県弁護士会登録。「いのちのとりで裁判」「公選法弾圧たちばな事件」「年金引下取消裁判」などに取り組む。

国民救援会愛知県本部会長の渥美雅康さんをたずね、今年で97年を迎える国民救援会の活動や、参院選後の情勢のもとで大事なことはなにか、お話を伺いました。                 【聞き手 蛯原京子 写真 近田美保子】

1928年 国民救援会結成

 日本国民救援会は、千葉・野田醤油争議の弾圧犠牲者の救援活動をきっかけに1928年4月7日に結成されました。2028年で100年になります。
 当時の日本は、絶対主義的天皇制権力の政治支配のもとで、アジア諸国への侵略と戦争の政策を推し進め、1925年には治安維持法が制定されました。特高警察や憲兵などを使って過酷な弾圧を強化し1928年には治安維持法を適用した3・15事件と呼ばれる共産党への大弾圧が行われました。非常に弾圧が厳しいなか、犠牲者の救援活動は困難で大変だったのです。
 戦後は、日本国憲法と世界人権宣言を羅針盤として、弾圧事件・えん罪事件・国や企業の不正に立ち向かう人々を支え、全国で多くの事件を支援しています。
 日本国民救援会のすすむ道(綱領 2006年7月31日採択)に、詳細に書かれています。ぜひ、ご覧ください。


選挙弾圧、再審・えん罪事件への支援

 戦後の主な活動の一つは、選挙弾圧への犠牲者や被告として起訴された人への支援運動です。現在でも選挙になると、監視パトロール活動や、警察や選管への申し入れをしています。機敏に対策会議をもって対応し、不当逮捕させない、逮捕されても起訴させないと活動しています。
 もう一つは、現在、救援会で大きな活動の柱になっていますが、再審・えん罪事件の救援支援活動です。 警察検察が、間違った見込み捜査や強引な捜査、立件を行い、証拠隠しまで行ってえん罪が生まれています。警察検察という非常に強力な権力の乱用によって人権が侵害されています。

最近では、再審無罪となった袴田事件や福井女子中学生殺人事件、あるいは、軍事転用可能な機器を無許可で輸出したとして外為法違反の罪に問われ、公訴取り消しとなった大川原化工機事件などが、その典型です。

治安維持法と普通選挙法

 治安維持法と普通選挙法は1925年に同時に制定されています。
何のために治安維持法がつくられたのか。選挙権は、それまでは直接国税3円以上の納税要件がありました。25歳以上の成人男性に限られるのですが、国家権力は普通選挙権の導入で、当時は無産者、いまでいうと労働者の力が強くなることを恐れて、「思想の悪化を防止」、国体の変革とか私有財産制度を否定する組織、団体、運動を刑罰をもって禁止する目的でした。
その後、どんどん拡大されて、社会主義、無産主義の運動をしている人だけではなく、自由主義的な活動、宗教、人権に関わる活動をしている人も検挙され、日本は、戦争に突き進んでいきました。この歴史を改めて学ぶことが大事だと思います。

参院選挙の結果

 参議院選挙はいろんな意味で考えさせられるところがあります。ただ、はっきりしているのは、今の自民党政治が国民の信頼を大きく失ったことは、間違いないことだと思います.
右翼的な方向である参政党、国民民主党に流れてしまった、これをどう見るのかです。
 実質賃金が下がったまま、物価高騰を救済する政策もなく、政治家の裏金が明らかになり、その不満の受け皿に参政党がなったと思います。「日本人ファースト」ということで、国民を大事にせよと、苦しい生活をしている者に目を向けてくれる期待感が反映したのではないでしょうか。
 同時に、外国人の人権を無視し攻撃することとセットというのが怖いところだと思います。こうした風潮を支持する世論があるということは注意しなければなりません。

外国人差別―人権にかかわる問題

 いま、生活保護の「いのちのとりで裁判」にかかわっています。外国人は生活保護で優遇されているわけではありません。外国人は、通達で生活保護が適用されているだけで、保護費が下げられても裁判を起こすことはできません。生活保護の権利が保障される対象に入っていないのです。
 排外主義的な世論が大きくなってしまうと、外国人の権利は無視していいと差別・分断に流れてしまいます。人権に関わる問題です。日本人だから外国人だからということで、差別をするということは、とんでもない話だと思います。

「スパイ防止法案」

 参政党の神谷代表は、秋の臨時国会に向け「スパイ防止法案」の提出をめざしているといっています。7月14日に「極左の考えを持った人たちが社会の中枢に入っている。極端な思想の人たちは辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法だ」と語りました。自民党も、国民民主党、維新の会も「スパイ防止法案」を参院選挙公約で掲げていました。
 2013年に特定秘密保護法が成立、2022年成立の経済安保法でも重要な情報に関わる人については身辺調査をする、プライバシーが侵害される監視の中に国民を置いて、不的確だと判断された人は排除されていく仕組みもすでに作られています。
 内心の問題、思想の問題にまで監視の目を行き渡らせて排除していく「スパイ防止法案」は、絶対に許してはなりません。

打開する力は

 排外的な主張は、事実ではないことを根拠もなしに煽っています。影響を受けて「いいな」と思っている人にも事実をきちんと伝えていくことが大切です。黙っていたら、いつの間にか危険な法律や施策ができてしまう。
 時の政府が国策に異議を訴える人たちを弾圧していく方向に流れていく可能性、さまざまな迫害や差別につながる可能性もあるわけです。
 国民自身が監視をして、間違った政策は是正をさせていく。政策に対する検証とかチェックとか、場合によってはそれに対する批判は絶対必要です。

話し合うこと 対話と学習を

 政治のことをみんなで話し合うことが大事です。
 学んでいくと、今の政治はこれでいいのか、どこに問題があるのか、みんなで議論していく。やっぱりここはおかしいよね、こういうことをやってほしいと出てくるのです。そうすることで政治の見え方が違ってくると思います。何をやらなきゃいけないかということにつながっていく。ある意味で責任感も出てくる。
 批判するにしても、なぜ支持を集めているのかということを分析して、それにどう対峙していくのかというのを考えていく。学習と対話がとても大事ですね。

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