
3月14日に「憲法をくらしと政治にいかす 改憲NO!あいち総がかり行動」の総会が開催され、市民連合の佐々木寛さんが、「総選挙の結果と今後の課題ー信じられる未来に向かって」をテーマに講演されました。その内容を編集部の責任でまとめました。
【編集・近田美保子 写真提供・竹内創さん 】
佐々木 寛(ささき ひろし)さん
市民連合(全国)共同代表。新潟国際情報大学教授。専門は平和学・国際政治学 グローバルデモクラシー論等。「おらってにいがた市民エネルギー協議会共同代表」。琉球大学島嶼地域科学研究所 客員研究員。
日本国憲法がもつ普遍性の再認識を~市民社会からの変革を!
複合危機(ポリクライシス)の時代をどう読むか
現代世界は、軍事・経済・気候・民主主義・社会心理などの危機が一挙に起こり、その状況を人間がコントロールする政治の力がどんどんと弱まっている「複合危機(ポリクライシス)の時代」です。
ひとつは「帝国主義」への回帰です。ウクライナ戦争、イスラエルによるガザ攻撃など、「力こそ正義」の論理が横行し、国際法による秩序を空洞化させつつあります。ふたつに、世界的に蔓延するネオリベラリズムの内面化です。市場原理が浸透し、「隣人より得をすること」に生きる意味を見出す社会的病理の進行が、ファシズムや排外主義を温存し、政治的極右勢力の伸長を支えています。
日本社会の危機
日本社会も「国家主義と戦争準備」が進められ、戦後民主主義の基盤を掘り崩す立憲主義が揺らいでいます。「原発最大活用」に固執し、再生可能エネルギーへの転換を果たせていません。
レトリックと排除が政治に浸透し反知性主義が拡大、政治・経済・報道のいずれもが男性中心構造に支配されているジェンダー不平等、長期のデフレと実質賃金の低下で、若年層は「未来を信じられない社会への絶望」といった複数の課題を抱えています。
日本の自殺死亡率はG7で最も高く、特に女性は突出しています。ユニセフ調査では子どもの精神的幸福度が38カ国中37位、半数の有権者が投票に行かない社会は、もはや民主主義社会とは言えない状況です。
日本政治の現状と野党・市民運動の課題
自民・公明の支配体制がなお続く一方、立憲民主党・国民民主党・連合などの勢力は路線混乱によって求心力を失い、連合が共産党との共闘を拒否したことで、野党共闘は事実上瓦解しました。新興勢力である「参政党」などのポピュリズム政党に一定の票が流れ、既成野党も市民との信頼を取り戻せてはいないのです。
このような現状に対して、「市民が政治をつくる時代」へと転換しなければなりません。その核心は、上からの改革ではなく「下からの変革」にあると思います。
下からの変革と希望の再構築
私たちは、絶望を超えて船を用意しよう。ここに乗ったらもうおぼれないと若者たちと共に乗る船=新しい社会の枠組みを提示すことではないでしょうか。鍵を握るのは市民社会の下からの変革と日本国憲法がもつ普遍性の再認識です。
ウクライナへの軍事侵攻、イランへの攻撃に対して日本を始め世界中で抗議デモが行われて若者が立ち上がっています。
かつて、ペシャワール会の中村哲医師が新潟での講演で「憲法9条に何度も命を助けられました。信頼こそ最大の安全保障です」とさらっと言われました。紛争地域に丸腰で行ってたどり着いた結論ではないでしょうか。
これは重要な指摘で憲法前文が掲げた「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持」するという理念は、理想主義ではなく、現実的リアリズムです。憲法は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないように」、市民が権力を監視、信頼関係の構築こそが長期的な平和を支える力です。
街頭に集う人々の熱量が社会を動かしている
政治は選挙や議会に限定されるものではなく、街頭や地域社会、対話の場の中で育まれます。異なる意見を持つ人々が直接顔を合わせ、共通の課題について議論することは、分断を乗り越えるための重要なプロセスです。SNSのような空間ではなく、開かれた「広場」において言葉を交わす経験が、民主主義の基礎体力を回復させるのではないでしょうか。
2015年の安保法制デモや、今年2月22日有楽町での市民連合の街頭宣伝に見られるように、街頭に集う人々の熱量が社会を動かしています。若者世代がペンライトを持ち寄り、K-POPのアイドル文化と結びついた新しい表現の形で、国会前で3800人と日に日に参加者が増えてきています。(講演後の3・25は2万4千人に。ネット参加は6万人)
今の状況に危機感を持ち、新しい運動のうねりが広がっています。フリースピーチの場や街角スピーチ、ファシリテーション型対話などを通じて、市民が自ら語り、他者の声を聞くことを重視していきたいですね。
つくる政治への転換
地域に根ざした具体的な実践、とりわけエネルギー、食、教育、医療・福祉といった生活基盤を地域で支える取り組みは、単なる経済活動ではなく民主主義の土台づくりでもあります。再生可能エネルギー市民事業などは、中央依存から脱却し、地域が自ら意思決定する力を育てます。こうした積み重ねが、政治的無力感を乗り越える実感へとつながります。
市民社会の再生に向け、長年実践してきたのが「市民エネルギー運動」地域分散型ネットワーク社会です。新潟で設立した「おらってにいがた市民エネルギー協議会」は、地域分散型の自然エネルギーによる発電を市民主体で行い、現在40か所を超える発電所を運営、三分の一は市の公共の土地や屋根を使っています。年間7400億円に及ぶ県内エネルギー支出を地元に循環させれば、雇用と経済活性化につながります。
デンマークや南オーストラリアの事例では、再生可能エネルギー100%社会や住民合意に基づく蓄電網がすでに進んでおり、教育・コミュニティ・ジェンダー平等が相互に補完しています。「平和構築としてのエネルギー転換」と捉え、日本でも「脱原発型社会=平和型社会」への転換を市民自らの手で実現すべきだと思います。
若者や女性の参加を広げることが重要です。現在の日本社会は意思決定の場が偏っており、多様な視点が十分に反映されていません。人々が主体的に関われる仕組みを作る必要があります。
これらの取り組みに共通するのは、「与えられる政治」から「つくる政治」への転換です。市民一人ひとりの小さな行動は即座に大きな変化を生まないかもしれません。しかし、それらがつながり、持続することで社会の基盤を変えていく力となると思います。
自ら関わり、対話し実践
総選挙の結果は確かに厳しいものでしたが、それは同時に、既存の枠組みに依存しない新たな民主主義を模索する契機でもあります。 絶望の中から希望を生み出すためには、外部に解決を求めるのではなく、自ら関わり、対話し、実践することが不可欠です。
憲法に刻まれた「信頼の理念」を手がかりに、市民が主体となって社会を再構築する。その積み重ねこそが、複合危機の時代を乗り越える現実的な道筋となると思います。
