県革新懇ニュース−この人に聞く

【22.03.10】樫村愛子さん――個人が分断されている社会の中でどう人とつながるのか

若者や女性たちがつながる場や機会を作る

  樫村 愛子 さん

精神分析・社会学研究。ラカン派精神分析理論による現代社会分析。愛知大学教員。『ネオリベラリズムの精神分析』(光文社新書)『この社会で働くのはなぜ苦しいのか』(作品社)ほか。WEBRONZA執筆。

日本社会の病理と臨床社会学

 私の専門分野は、臨床社会学です。社会学というと理論だけとか冷たい分析になりがちなところを、現実の処方箋まで考えていく分野です。特に精神分析理論(カウンセリング理論の母体)を使って社会病理を分析しています。
 出発点は1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件でした。バブルに浮かれていた時代、社会の歪みや問題が表面に現れていなかったのですが、この時代ぐらいから内在していたものが吹き出していきました。
 日本社会は自殺を皆が触れないようにすることに表れているように、大切なことを排除する社会です。とりわけバブルの時は、そこにも格差や貧困や苦しみがあったのに、拝金主義と排除が拡大していました。事件をきっかけにスピリチュアリズムに流れる若い女性たちのインタビューをしたのですが、企業社会としての日本社会での女性の生きづらさが表れていました。

生きることが苦しい社会

に求められる競争の環境の中、働け、働けと背中を押されています。働かない奴は人間じゃないくらいのプレッシャーがありますが、本来なら働くことに付随する、社会のなかで誰かの役にたったり、誇りをもったり、楽しかったりということ自体は希薄になっています。
 私の著書『この社会で働くのはなぜ苦しいのか』のタイトルの背景です。
 また私はフランスで子育てをして両方を行きしていたので、フランスの豊かさ(安心・便利は日本のようになくても、人々が豊かなコミュニケーションをし、それを支える文化がある)と日本社会の貧しさを比較して感じていました。
 ネオリベラリズムの批判をいち早くアメリカ批判と共に行っていたのもフランスで、それを著書(『ネオリベラリズムの精神分析』)では紹介しました。

若者が社会と関わる体験を提供する

 学生を見てると、成熟社会の中で、他者や社会に対していい関係をもとうとか、何が大切かということはちゃんと理解しているのです。それなのに、具体的に社会に目が向かないし、政治活動にはなかなか参加しない。そして何が大事かということはわからないわけではないけれど、フランスと比べても「安心・便利よりも人々の関わりの豊かさ」といった社会や文化のイメージが枯渇していると思います。
 ネオリベ社会の競争の中で個人が分断され、人とのつながり方に困難を抱えています。でもそれは、とても身近なところから、自然に参加できる場やきっかけがあることで変化の可能性を持つと思います。授業で、地域をフィールドしたり地域の人たちとコミュニケーションする機会の中から社会のあり方の多様性と出会えるようにと思っています。人生の豊かさは生の多様性にあるからです。
 昨年度は、水俣の相思社の永野三智さんとZOOMで学生がコミュニケーションしました。三智さんの熱い思いがZOOMに溢れてきました。何度も刑務所に入ったり精神病院に入ったもと薬物依存当事者の渡辺洋次郎さんも毎年ゼミで学生と議論してくれています。こういった経験が少しずつ学生を豊かにしていくと思います。

パートナーシップ制度を東三河からひろげたい

 地域(東三河)では、豊橋市、田原市、静岡県湖西市で男女共同参画審議会の委員長やアドバイザーをやっています。豊橋は2021年4月に「パートナーシップ制度」をスタートさせました。「パートナーシップ制度」は、一方又は双方が性的少数者である2人が、人生のパートナーであることを市長に宣誓し、市がその宣誓書を受領したことを証明する制度です。法的な支えはないけれど、行政が性的マイノリティを認め、市営住宅の入居を家族資格として認めたり、公立病院の個人情報を家族資格として提供する等、重要なサポートができます。
 蒲郡も1月に始め、湖西も4月からスタートです。この地域では浜松がパイオニアで当事者の人たちと制度を作り上げてきました。浜松の経験を豊橋が、豊橋の経験を湖西が、と行政間のネットワークもできました。4月スタートを検討中の田原市を含め、豊川市や新城市でも取り組み予定があり、東三河から静岡西部につながるベルト地帯が期待されています。
 私は今、コロナで影響を受けた女性の貧困に取り組む、SNAWというネットワークにも参加しています。 昨年度の衆議院選挙の時には、候補者に女性政策(特に貧困対策)について質問状を送りました。当選した男性議員ほど女性政策に関心が低いことがわかり、課題が大きいことがわかりました。
 ここには、政治家、学者、アクティビストなどさまざまな人々が関わっています。日本の地域政治には、こういう空間や活動が欠けているし、今それが大事だと思っています。

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