先日、驚きのニュースが入った。イスラエルが不法併合する東エルサレムの書店で、店主マフムード・ムーナさんと甥アフマドさんが逮捕されたのだ。ここは15年前に現地に住んでいた頃、何度も通った場所だ。
イスラエルの併合下とはいえ、東エルサレムは一神教の聖地が集中する国際都市で、国連機関や各国領事館が集中する。そのメイン通りにある書店は、私のような外国人研究者には現地の学術ネットワークへの入り口だ。
マフムードさん家族には研究でも大変お世話になった。イスラエルが破壊したパレスチナ人村の記録を収めた百科事典(全11巻)を買った時は「君はパレスチナの歴史を保存する日本人だ、おめでとう!」と喜んでくれた。日本語訳もある歴史書『パレスチナ戦争』の著者ラシード・ハーリディー、『パレスチナの民族浄化』の著者イラン・パペの講演もここで聞いた。いつもそこに冷笑的なユーモアを語り、知的交流を愛するマフムードさんがいた。
彼の逮捕容疑は「秩序妨害行為」。イスラエル当局はパレスチナ人の言論などいつでも弾圧できることを見せつけたのだ。イスラエル治安サービスの囚人服を着せられ、憔悴した彼の姿を見た時には衝撃が走った。
書店に並ぶ英語の本を携帯アプリで翻訳して押収した占領者は、知識の何たるかを知らない。離散と共に研究書が散逸しても、パレスチナ人は歴史を紡ぎ続ける。占領が加速するほど、抵抗者の思想は深みを増す。
だからこそ、米国追随の日本の政治のために自分が占領の側に加担させられているという事実が心にのしかかる。